竹に絡みつく蔦

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 この村には昔から続く風習として、毎年お盆の前に神事のようなことをしていた。その内容は十五歳になった少女から三人選び神社に捧げものをするというものだった。  捧げるのは米、野菜などごく普通のお供え物だ。直接神に捧げものを持っていく「カンノ」、神事をつつがなく進める役割の「サイジ」、神に感謝の気持ちを捧げるための曲を奏でる「コドコ」。この3者の役割は非常に重要で、この役を取るために少女たちは必死に自分をアピールする。  選抜方法は村の人たちからの推薦をもとに神社の関係者が話し合いで決めるのだが、狭い田舎によくある風習で派閥争いのようなものは当然存在する。家同士の衝突や権力違いなどで本当の意味で平等に決められるわけではなかった。だいたいは神社関係者が優遇され、その親族に十五歳がいなければおこぼれで他の子が選ばれるという感じだった。  一般の人が見れるのは神事そのものだけで、どんな準備があって少女たちが何をしているのかは教えてもらえない。ただ、異様なまでに大人たちは「神様を怒らせてはいけない」と口をそろえて言うのだった。 「怒らせるっていうのは?」 「そこはわかりません。過去何か怒らせてしまう出来事があったのかもしれませんが、特にそういう話は聞いたことがありませんから」 「その辺は帰ったら探してみるよ。何かあるのかもね」  それだけ大人たちが神経質になるのだ、何か大切なルールがあったに違いない。それに過去選ばれてきた少女たちは皆その後上京し、公務員になったり霞が関で働いたりとエリート街道に進むものが多かった。人生の成功が約束されているようなものなので神様のご加護だと思う者が多かったのだろう。  そこまで大切にされているからこそ、少女たちにとって選ばれることは名誉ある事だったし出世の近道になることが約束されているため必死に選ばれようとする。  ただし選ばれる基準は絶対に教えてもらえない為、ひとまず少女たちは大人うけがよさそうな優等生をアピールする。大人の手伝いをよくやり、人から嫌がられる態度をしない、素直で華やかさがある大和撫子を目指す。 「そうやって苦労して役を得て、神事が行われます。でも八年前、失敗したんです」 「失敗?」 「死亡者が出たんです。神に捧げものを持っていく前に、捧げる役のカンノが死んだんです。それも神事の最中に」  神事は滞りなく進んでした。コドコによる曲は流れ、サイジの祝詞も唱えられた。しかし待っても待ってもカンノが神社に来ない。不審に思いシンジとコドコが探すが見つからない。とうとう村人総出で探したところ、村にある小さな池に浮いて死んでいた。 「当時は大騒ぎでした。警察も来ましたけど、住民の取り乱し方が尋常ではなくて収拾がつかなくなったんです」 「そりゃあ事件だもんね」 「違いますよ」 「え?」 「人が死んだからパニックになったんじゃないです。神事が失敗したから半狂乱になったんです。神様に捧げものを上げないままだったので、神様を怒らせたって。そして何死んでるんだ、と遺体は村人から蹴飛ばされたりお前らの娘は何してるんだとその家族が猛攻撃を受けたんです。村八分とかそんなものではない、違う事件でも発生しそうな勢いでした」 「ここまでくると何かカルト的なものを感じるなあ」 「だから引っ越したんです」 その言葉に五十嵐は静かに薫を見た。薫は無表情のまま歩き続ける。 「じゃあ、その当時のカンノって」 「姉です」
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