竹に絡みつく蔦

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「ところで、さっきの話の続きですけど」 「うん?」 「村人は姉が祟りを起こしていると思っている人がいるようです。何故でしょうか」 「失敗を責めたから?」 「死んだあとなのに? 普通祟るなら死んだ理由が理不尽だったからでしょう」 「ああ、そうか。そもそも死んだ理由が謎だったね。うーん、殺人なら当然犯人を恨んでるから……それなら複数の村人を祟るのはおかしいか。事故なら死んだことが無念で……? なんかしっくりこないね」 「そもそもおかしいんですよね、何で謎の死を遂げた姉が村人を祟るのか。不審死が続いたら姉が祟ってるって、辻褄合わないじゃないですか。村人から日頃いじめれてたとか、神事に関わった複数の人間に実は殺されたとかならわかりますけどね。だから自分なりにこんな推測を立てたんです」 「どんな?」  ぴたりと立ち止まり、五十嵐の顔を見ながら静かに告げる。 「そもそも連続不審死、神様の祟りじゃないかって。姉が死んだことで神様に捧げものを届けていないんですよ、怒って当たり前じゃないですか。それが姉の死がインパクトありすぎて、いつの間にかみんなの中ですり替わってしまったんじゃないか、ってね」 「え、ああ、そうか。そうだね、そっちのがしっくりくる」  なるほど、と五十嵐は少し考え込むように腕を組んだ。確かに言われてみればそちらの方が辻褄が合う。 「もしそうなら、みんな見当違いの事で騒いでいるだけで何も根本的解決になっていないということになるな」 「なぜ大人たちはあんなに神事を、いえ、神様を崇めているのかわかりません。そもそも何を祀っているのでしょうね、あの神社」  五十嵐も何を祀っているのかまでは調べていない。死んだ人にさえ蹴りを入れるほどの激昂をした人たちがいたことを考えれば、閉鎖的な田舎の風習というにはあまりにも異様なことだ。  あちこち聞き込みをしたので村の人たちは五十嵐がよそ者で事件を探っていることはばれている。そんな五十嵐に神聖な神社や神について教えてくれるとは思えないので、調べるのは少し骨が折れそうだ。  歩いていくうちにやや開けた場所に出た。目の前にはあまりキレイとは言えない水の色をした池が見えてくる。池や湖は川と違って水が入れ替わらないのだから仕方ない。神社から降りてこられる階段も遠くに見えた。ここはまさに神社の真裏に当たる場所だった。 「そもそも、捧げものをできなかったことくらいで神様は怒るでしょうか? 人を死なせるほど。もしそうならそれは神様じゃないですよきっと、バケモノの類です。神様のふりをしていいように人を支配しているだけの」 「バケモノ、か」  ふわり、と生暖かい風が通り抜ける。夏なのだから温風がくるのは当たり前なのだが、竹に覆われて日陰になっているのでやや涼しさも感じる中のこの風は居心地が悪かった。 「毎年死んでいるのも、もしかしたら魂を捧げものに選んでしまったのかもしれませんね。よこさないのならこっちから取りに行く、みたいな。大人たちはそれを知っていたから必死に捧げものを捧げてきたのかもしれません」 「……」  それまでずっと無表情だった薫がかすかに笑った。嗤った、といったほうがいいか。その表情は竹により作られた日陰もあいまって暗い笑みに見えた。 「今年は誰の番でしょうか。村人の誰かか、それとも不躾に探りを入れてくるよそ者か」 「それは」
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