黒い夢で

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 目が覚めたら、目の前が真っ暗だった。  いや、これはもう真っ暗というよりただの黒だ。黒のペンキを一面に塗りつぶしたくらいに黒い。  試しに瞼を開閉してみるも、視界に映るものは何も変わらない。閉じても開けても黒いのだから、もしや私、目を閉じていないのでは?と変な錯覚に陥る。  というか今の私は生きているのだろうか。ここまで何も見えないと、もしや魂だけの存在になったのではないかと不安になる。見えないながらも自分の手でペタペタと顔から体、体から膝へと触っていく。手にはぷにぷにと弾む頬と、触り慣れたパジャマの布地の感触が伝わってきた。よかった、私は存在しているようだ。  パジャマを着ているということは、私は寝ていたのだろうか。上手く回転しない頭で記憶を巡る。……うん、漫画を読んでいたら眠くなって、消灯してベッドに潜った記憶がある。ならばパジャマ姿なのも納得がいくというものだ。  それにしても暗い、暗すぎる。消灯した夜の自室でもここまでは暗くならない。自分自身が見えないなんて相当だ。見えなさ過ぎて、自分が今寝ているのか起きているのか一瞬わからなくなる。だが、足の裏全面から硬くて平らのものを感じ取っているため、辛うじて立っているんだなと自覚できている。  ……いや、待て。待つんだ私。直で足の裏から何かを感じているということは裸足じゃないか。いくらパジャマ姿とは言え、裸足はちょっとマズいのではないか?危機感が無さ過ぎるにもほどがある。ましてやこの暗闇だ。一体全体何を間違えて踏むかわからないというのに。  自分の危機感のなさに頭を抱えると、視野を奪われているからなのか、聴覚が随分と鋭くなっていることに気づいた。耳を澄ませてみると、何やらテレビの砂嵐のような、誰かがぶつぶつと呟いているような音が微かに聞こえてくる。  ——ここは、どこなのだろうか。  自分自身すら見えない暗闇、微かにだが聞こえる雑音、パジャマ姿に裸足。これらの事から1つの予想が私の中で急浮上した。  試しに頬を抓ってみた。  指先からは頬のぷにぷにとした感触、頬からはつねられた感覚が伝わってくるも、痛みを感じない。  夢……でいいようだ。そうか、夢か。夢ならばそのうち目覚めるだろう。  そう判断した私は、その場で体育座りをした。お尻からは床の硬い感触が伝わってくる。座っていればその内目が覚めると思うんだ。
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