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「ああ、そんなこと、ありましたねえ……。あの人、彼女いたんだあ。しかも、それが佐川さんなんて、すっごい偶然……。」
女性的な、媚びた口調。それでも、声色は完全に男性のもの。歪な一言が、高井と中川を凍り付かせた。
「そうですよ。あれ、冤罪です。本当は痴漢なんて、されてませんでしたあ」
くねくねと腰を動かす。指先が、うねうね曲がる。
「まあ、それでも結果的に、明石さんにも、佐川さんにも、高井さんにもストーカーされたわけだし。何も、言いっこなしですよお」
「……何ですか、それ」
高井は思わず、何歩か後ずさりした。
「女性みたいなこと、言うんですね……。」
精一杯の嫌味をこめ、加藤を睨みつけた。加藤は嬉しそうに、口角をぐにっと上げた。
「おい、正樹、どういうことだよ」
動揺した様子の中川が、加藤に掴みかかった。
「いたい、良吾、やめて……。」
わざとらしい、演技じみた、媚びた声。
その声の奥で、加藤はあの日目撃したのと同じ、愉悦に酔った、気味の悪い表情をしていた。
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