ストーカー・イン・ザ・シック

13/16
前へ
/16ページ
次へ
「ああ、そんなこと、ありましたねえ……。あの人、彼女いたんだあ。しかも、それが佐川さんなんて、すっごい偶然……。」  女性的な、媚びた口調。それでも、声色は完全に男性のもの。歪な一言が、高井と中川を凍り付かせた。 「そうですよ。あれ、冤罪です。本当は痴漢なんて、されてませんでしたあ」  くねくねと腰を動かす。指先が、うねうね曲がる。 「まあ、それでも結果的に、明石さんにも、佐川さんにも、高井さんにもストーカーされたわけだし。何も、言いっこなしですよお」 「……何ですか、それ」  高井は思わず、何歩か後ずさりした。 「女性みたいなこと、言うんですね……。」  精一杯の嫌味をこめ、加藤を睨みつけた。加藤は嬉しそうに、口角をぐにっと上げた。 「おい、正樹、どういうことだよ」  動揺した様子の中川が、加藤に掴みかかった。 「いたい、良吾、やめて……。」  わざとらしい、演技じみた、媚びた声。  その声の奥で、加藤はあの日目撃したのと同じ、愉悦に酔った、気味の悪い表情をしていた。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加