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加藤の一言で神妙な雰囲気になってしまったため、飲み会はすぐお開きとなった。加藤は中川に支えられて帰っていった。
明石は犯人捜しをする決意をした。入社した当時から、色白で大人しく、儚げなイケメンだと有名だった加藤。そのストーカーを捕まえたなら、会社で称賛されること間違いなしだ。あわよくば、加藤と付き合えるかもしれない。そんな浅はかな思慮で、明石は仕事もよそに同僚に調査して回り始めた。
「彼、イケメンだからねえ」
「最近はずっと、中川くんと帰ってるって聞いたわよ。ストーカーが怖いんじゃない?」
「勘違いでしょ」
「元カノとか?」
明石が特に気になったのは、あの日飲み会に同席していた女性二人のこと
だ。
「犯人捜しとか、しょーもないことやってないで、仕事してよ、明石さん」
佐川はいつにも増して攻撃的な態度だ。
「まあまあ、綾ちゃん」
いつも通り、高井が彼女を宥める。その顔には、少し疲れが滲んでいた。
「あはは、すみませえん」
佐川に叱られ、明石は素直にその場を離れた。
明石はスマホのメモに、『佐川さん 犯人だから、疑われて過剰反応している?』『高井さん ストーカーしていたら、夜遅くなるし、疲れるはず』と書いた。
高井里奈は、清楚で大人しい優等生だ。男性社員からの人気も高い。おっとりしていて優しい彼女が、ストーカーなんてしないか、と明石は思い直した。それならやっぱり、いやに攻撃的な佐川の態度が気になる。明石はメモの佐川の欄に、『怪しい』と付け足した。
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