5人が本棚に入れています
本棚に追加
明石は次の日から、会社に来なくなった。
一週間も経たないうちに、退職したと風の噂で聞いた。彼女は目立ちたがり屋で、社内でも少し浮いた存在だったため、ストーカー事件も彼女が犯人ということで片付いたようだ。
佐川はもう、元彼のことも、明石のことも、何も話さない。
しかし、高井は違和感を拭いきることが出来なかった。
自分が佐川と目撃した女性が明石だったとして、最初に明石が目撃した女性は誰だったのか?
加藤が帰宅してから三十分程して現れたこと、挙動不審で明らかに怪しい人物だったこと、明石が言いふらしてまわっていたこの二点は一致するのに、服装だけが、高井が見た女性と全く違うのだ。
佐川には相談できない。彼女は明石を酷く恨んでいるはずだし、彼女にこれ以上この話をするのは酷だ。
それでも高井は納得がいかず、中川に相談してみることにした。
「中川さん、今日飲みに行きませんか」
高井が声をかけると、中川は快く了承してくれた。隣で加藤が不安そうな顔をしたが、「いいだろ、もうストーカー問題は解決したんだから。たまには別々で帰ろうぜ」と中川が宥めると、もう加藤はなにも言わなかった。
最初のコメントを投稿しよう!