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辺りが暗くなり少しの時間が経った。確かに心が研ぎ澄まされた気持ちになる。
その時優子の声がした。身体の奥底に染み渡る様に感じる。
「雅也、大事なお返事の前に聞いて欲しい事があるの。私、雅也にひとつだけ嘘をついている。本当は妹はもういないの…」
「もうって?」
「身体が不自由って言ったでしょ?目が見えなくなったの。その事を悔やんで母は病気になった。そして離婚をした。名字も高橋から速水に変わった。そして妹は母が病気になったのも、離婚したのも自分のせいだって思い詰めて、それで…。」
「そうだったんだ…」
「この暗闇…妹はずっとこの中にいたんだなって…。光を失った妹はどれだけ辛かったろうって…。雅也、覚えてる?初めて会った時の私の言葉」
「うん、運命の人だろ?」
「そう、あの言葉は今日の日の為に言ったの…。どう?この闇の中で聞く私の声、雅也の身体に染み込んでる?」
「ああ、身体の芯まで…」
「じゃあ、お返事させて下さい」
「うん」
いよいよだ、俺の運命を決める答えが聞ける。心臓の音が早くなった。
「私の妹の名前は美咲、高橋美咲です。」
「・・・・・・えっ!」
「妹をこの闇の中に放りこんだのはあなたです!」
「・・・・・・まさか・・・」
「これが私の返事です。さようなら」
「優子!」
優子は部屋を出て行った…。
配られた眼鏡は優子が持って行ってしまった。
俺は暗闇の中、ひとり残されたまま呆然と座っているしかなかった。
暗闇の恐怖と身体の芯まで染み込んだ優子の声に身体が震えて押さえる事が出来ない。そして雄叫びにも似た声を張り上げた…。
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