桜井雅也と言う男

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俺は昇進して初めての商談に向かう。電車に乗り、4人掛けボックス席の窓側に座った。座りながら真新しい名刺を見た。 企画部桜井雅也。 やっとここまで来た。暗闇の中から抜け出した。思わず顔がにやけてしまう。車窓から流れる海岸線が眩しく目を細めている様に見えるから、斜め前に座っている女性には気付かれないだろう。 「つめてっ!」 何かが膝にかかった。 「あっ!すみません!どうしよう」 その斜め前の若い女性のアイスコーヒーだ。 「すみません!今拭きます、と言ってもシミになっちゃう!ホントどうしよう…」 女性は慌てふためいている。 俺は自分でも拭きながら、大丈夫と言い彼女を見た。 慌てながら拭いている彼女の髪はストレートロングでシルクの様な光を放ち、透ける様な白い肌に整った顔立ち。なのに美人特有の冷たさは感じず謝っている表情は温かく可愛さを感じた。 「あの、本当に大丈夫ですから」 俺は見とれている自分が恥ずかしくなりやっと声を出した。 彼女の柔らかい笑顔。運命の人だと直感した。
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