ショー・マスト・ゴー・オン!

3/8
17人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
「……ということがあってね、死ぬかと思ったよ」 「それは恋バナ?」  次の日。私は昼休みに友達の栞と弁当を食べていた。栞はテニス部で、演劇部のことはよく知らないが私の片想いは知っている。 「佐山そんなにいいかな? 確かにイケメンだけど、演劇部だったら藤白先輩の方がカッコいいでしょ。ファンクラブもあるじゃん」  私は首をひねる。藤白部長は確かに端正な顔立ちをしているし優しい人だ。でも私にはピンと来ない。いい部長だなあとは思っているけれど。 「それと比べると佐山はいつも淡々としてるし、ちょっと怖いよね」 「そんなことは!」  反論しようとすると、口の中に栞の箸で卵焼きが突っ込まれた。うちとは違う甘い卵焼きだ。 「奏衣ももう二年もうだうだやってるんだから、次の文化祭でケリつけたら? ほら、後夜祭に誘うとか」 「うう」  呆れたような声音に、しょんぼり肩を落とす。文化祭の最終日は夜遅くまで校舎が開放され、キャンプファイヤーが組まれるのだ。暗い中で綺麗な火を見ていると盛り上がるのか、ここでカップルが生まれることも多いし、後夜祭に誘うというのはすなわちそういうことですよ、という暗黙のルールもある。文化祭でそわつく生徒が多い原因の一つだ。 「こういうきっかけがないと動けないでしょ」 「私には無理だよ……」  弁当に視線を落とす。何度見ても、舞台の上に立つ佐山くんは輝いている。つい目で追ってしまう華があるのだ。そして持って生まれた華に負けないくらい努力している。一方私はただの衣装係で。光を受けて立つ人に、暗闇の中が見えるとは思えなかった。  だから私はずっと、片想いをしている。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!