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桜が咲くと胸が切ない。
一年という長き時をかけて咲かせた花は儚すぎて、美しき故に脆く、嵐が吹くと一瞬にして花びらは咲き散りゆく。
彼女が事業所を訪れたのは、確か春だったように思う。
社会資源の利用(※当社の場合障碍がある方の就職に向けた就労訓練施設※)に際した見学であり、就職を視野に入れた企業見学に来た訳でも無いのに眼鏡をかけて、黒のスーツの下には白のブラウス、髪をひっつめて一本に括る。
あの出で立ちは真摯に全てに向き合う人だったからだと振り返ると今更になって気付かされる。
「祇園さん、予定通り新規の見学から受理面接頼んだよ。」
「了解しました。」
私は上司に返事をすると、付添で訪れた他機関の支援者に挨拶をする。
「桧原さんでしょうか?お待たせいたしました。」
他機関のスタッフとは前職でも仕事上会ったが今の会社では初めてだ、顔見知りの安心感と共に簡単に名刺を交換する。
「宜しくお願いします。」
彼女ー桧原さんーが口を開いた。
一言必要な会話のみ口を開き挨拶をしてくれ、緊張か表情が硬く感情を消した雰囲気の方だと思った。
私はめいっぱいの笑顔でお迎えする。
逢えて嬉しい!頑張って生きてきて下さって、うちに来て下さり嬉しいです!!
気持ちを全てその笑顔に込めた。
「初めまして、桧原さん、お待ちしておりました!」
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