それぞれの行方

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翌日、朝早くから迎えに来た史郎の車に乗って 隆吾は、百合香の実家に行った。 何事かと驚く、両親と妹夫婦に、隆吾は事の次第を告げ 娘の不始末を、心から謝った。 史郎は、百合香との結婚を、許して欲しいとお願いした。 両親は「そんなに謝らないで下さい、慶次郎さんも、基子さんも 百合香だけで無く、私達にまで、良くしてくれていたんです」と 隆吾の頭を上げさせ 桜も「この前も基子さんが、訪ねて来てくれたんです。 きっと姉さんの事を、心配していたんですよ」と、言う。 それより、百合香に子供が出来た事の方が、何よりも嬉しい様で 「これで、私達も、本当に安心しました」と、父親が言い 「もう、諦めていたのに、百合香はどんなに喜んでいるか、、、」と 母親は、涙ぐみ「毎日、近くの神社に、子授けのお願いに行っていたんです。 明日は、お礼参りに行って、安産のお守りを貰って来ます」と、涙を拭った。 そして、父親は、史郎の右手を、母親は左手を、両手で包み 「どうか、どうか、百合香を宜しくお願いします」と、何度も頭を下げた。 桜は「育児の事は、私が先輩ですから、何でも相談に乗りますからね」と にこにこしながら、史郎に言った。 帰りの車の中で、隆吾は「あんな良い、ご両親に育てられたので 百合香は、優しいんだな~」と言い「そうだね、俺も、ご両親に負けない様な 素敵な家庭を作るよ」と、史郎は言う。 隆吾は知った、喜一郎からは疎まれ、基子からは過保護に、その癖 史郎が、本当に求めていた事には、放任していた基子に育てられたのに 史郎が、真っ直ぐに育ったのは、百合香の優しさが有ったからだと。 その帰りに、病院へ寄って、百合香に会った隆吾は、基子の事を詫びたうえで 実家へ行った事まで、すべて話し 「もう、何も心配する事は無いぞ、安心して、子供の事だけ考えてくれ」 と、言った「私の為に、、何から何まで、有難う御座います」 百合香は、実家の両親が、喜んでくれた事に、涙ぐんで、お礼を言った。 「これからは、困った事が出来たら、何でもわしの所へ言って来なさい 何と言っても、わしは、この曾孫の名付け親になるんだからな」 隆吾は、嬉しそうにそう言った。 「祖父ちゃんったら、曾孫の為に長生きするって 張り切って、運動を始めたんだよ」史郎が、そう言って笑う。 そして「悪阻が治まったら、式を挙げようね」と、囁いた。 家に帰った隆吾は、基子に電話をした。 「昨日、史郎が来たんだ」「そ、それで?」 この数カ月、どこで何をしていたのか、慶次郎との仲が、ぎくしゃくして来た基子には、もう頼れる者は史郎しか居なかった。 「喜べと言って良いのか、悪いのか、お前は、お祖母さんになったぞ」 「お婆さん?」「ああ、史郎に、子供が出来た」「こ、子供?史郎に?」 「そうだ、相手は百合香だ」「ゆ、百合香って、、あの百合香ちゃん?」 「そうだ、決してお前達への復讐のために、史郎を誘惑したわけじゃない 史郎が、言う事を聞かないなら、15階から、飛び降りると脅したからだ」 「、、、、、」「子供も出来た事だし、結婚を許してやった。 お前達には、反対など出来まい」「、、、はい」 「それと、史郎は、お前達との付き合いは、しないと言っているが これも、お前達が蒔いた種だ、仕方あるまい」「分かりました、、」 隆吾との電話を切った、基子の頭は、パニック状態だった。 どんなに基子が憎くても、だからと言って 史郎を誘惑する様な百合香では無い事は、基子が一番よく知っている。 きっと、無茶な史郎に振り回されての事だろうが、結婚ですって? 子供ですって?直ぐに脳裏に浮かんだのは、子供が生まれた後の行事だった。 お七夜、お宮参り、お食い初め、誕生日、、、何もかも参加させて貰えない それどころか、可愛い孫を抱く事さえ、許されないのだ。 天に向かって吐いた唾が、今、降りかかって来た、基子はそう思った。 その話を聞いた慶次郎は、もっと驚いた。 15年間、最低でも月に一度は抱いていたのに、子供は出来なかった。 それなのに、あっと言う間に、もう子供が出来たと言うのか。 不妊の相談に行った医者は、ご主人の検査をと、強く言っていたが 取り合わなかった、基子とも、史郎を産んだ後も 避妊などしなかったのに、出来なかった。 もしかしたら、不妊の原因は、俺の方? だったとしたら、史郎は、誰の子なんだ?真っ黒な疑惑が湧いて来たが 「そんな事、知った所で、もう史郎も、百合香も、戻っては来ない」 慶次郎は、そう呟くと、何もかもを飲み込むように 手に持った、ウィスキーを飲み干した。        (完)
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