破綻

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その頃、博子の部屋に、娘二人が集まって、話し込んでいた。 「聞いた?慶次郎さんの所、離婚したんだってね」 「随分、仲が良かった様にみえたけど」 「やっぱり、子供が出来なかったのが原因かな~」 博子も、娘二人も、息子も全員、この同じマンションで暮らしている。 皆、病院勤めなので、早出や遅出、夜勤などで、食事も睡眠時間も バラバラになる、食事をしたい者や、二人の子供を遊ばせる場所として 一番広い、博子の部屋が使われていた。 夜勤明けで寝ている者を起こさない為でも、光熱費を節約する為でも有った。 稼ぎが少なく、長女の紐的存在の川谷は、話の中へも入れて貰えず 隅っこで、子供達の相手をしながら、話を聞いていたが 『何だよ、たった二枚の写真で、もう離婚したのか これじゃ、折角の証拠品も役立たずだな』と、小遣いを稼ぎそこなったと 心の中で、ぼやいていた。 その時、慌ただしく病院から、博子と息子が帰って来て 「大変よ、基子が離婚を切り出したの」と、叫んだ。 「お母さんと、お父さんの不倫現場の写真や、音声テープを証拠品として 出して来たんだ」息子も、青い顔で言う。 「何ですって!!」二人の娘も驚いたが、一番驚いたのは川谷だった。 『今まで、何も言わなかった癖に、何で今なんだ』 心の中で叫んだが、基子が離婚を切り出した最大の理由は 慶次郎の離婚だという事は、火を見るより明らかだった。 そして、その原因を作ったのは、自分だ。 長女が、咳き込むように「そ、それで?」と、聞く。 「お父さんは、今、津川のお屋敷に呼び出されて行ったんだ」息子の言葉に 「津川、、、」皆の顔が青くなる。 あの気難しい、絶対的な権力を持っていて、御大と呼ばれている津川隆吾。 きっと、カンカンに違いない。 「あの人に睨まれたら、もう終わりよ」「私達、どうなるの?」 「もう、何処の病院でも、働けないわ」皆は、唇をかみしめた。 「それにしても、どうしてばれたのかしら?」 「そうよ、皆で、あんなに気を付けていたのに」川谷は、身を縮めた。 「きっと、金を山ほど使って、凄腕の探偵でも雇ったんでしょ」 博子が、吐き捨てるように言う。 「大金持ちには、適わないって事か」息子の言葉に、皆はうなだれた。 その喜一郎は、隆吾の前で、小さくなっていた。 「こうなったら、基子の言う通り、離婚しか無いと思うが」「は、はい」 「史郎の親権は、基子で良いんだな」「は、はい」 なるべく要らぬ事は喋らない様にと、気を付ける。 「お前の不始末から、離婚になったのだ 基子の財産を、半分やる事は出来ない」「ごもっともです」 「今更だが、私から結婚の話が有った時、何で同棲している人が居ると 断らなかったのだ」 「お言葉には、逆らえないと思いましたし 病院を持つのは、長年の夢でしたから」 喜一郎の脇から、冷や汗が流れたが、正直に答えた。 「そうか、よく調べなかった私も悪い、あの病院は、今まで通り お前の物とする」「ほ、本当で御座いますか」 「何もかも無くなっては、これからの生活に困るだろう。 お前の為に、ずっと日陰に居たその女と、正式に結婚して 子供達も、ちゃんと認知してやれ」 「は、はい、有難う御座います」喜一郎は、嬉し涙を零した。
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