破綻

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どんよりと重い空気が満ちた、博子の部屋に「皆、喜べっ」と 喜一郎が、満面の笑みで帰って来た。 あまりの事に、父は気が狂ったのかと、子供達は思ったが 喜一郎の話を聞いて、皆も躍り上がって喜んだ。 「もう、私達、こそこそしなくて良いのね」 「そうだ、お義父さんも認めてくれたんだ、もう、おおっぴらに 私の子供だと言って良いんだ」 「お母さんは、正式に妻になるのね」「ああ、明日にでも、籍を入れる」 「やった、やった」「万歳!!」もう、喜びが爆発して、大騒ぎになった。 そんな中、川谷は、こそこそっと自分の部屋に行き 持っていた、他の証拠品を、全て捨ててしまった。 何かの拍子に、こんな物が見つけられたら、それこそ只では済まない。 証拠品さえ無ければ、知らぬ存ぜぬで、突っぱねられる、そう思ったのだ。 すんなり離婚出来て、基子も喜んでいた。 史郎を妊娠した時、喜一郎に別れてくれと言ったが 喜一郎は、隆吾の後ろ盾を失う事を恐れて、離婚に応じなかった。 そして「俺には、何の落ち度もない、だから、離婚はしない 誰の子か知らないが、生みたければ、勝手に産めば良い」と、言った。 まさか基子の相手が、弟だとは思いもしなかったのだ。 こんな事態になった今でさえ、まだこの事は知らなかった。 慶次郎は、仕方なく、百合香と結婚し、二人の関係を隠す事にした。 その後、喜一郎の、不倫の証拠は、沢山手に入れ、いつでも離婚は出来たが 基子は、史郎の心を乱したくないと、大学を卒業するまで、待つ事にした。 ちょっと早くなったが、史郎も、もう20歳だ。 両親の離婚のショックも、少ないだろうと、決心した。 百合香の事を思うと、胸が痛んだが、慶次郎が自分だけの物になるのは 長い間の夢だ、それが叶うと嬉しかった。 喜一郎が、隆吾の元から帰った後、基子も、慶次郎と一緒に隆吾に会い 全ての事を話した。 隆吾は、あまりの驚きで、暫くの間、物も言えなかったが 目をパシパシさせると 「いくら忙しいからとはいえ、お前の事を、使用人任せにしていたからな~ やっぱり、母親が居ないと駄目だったんだ こんな、身勝手な事をする娘になってしまって、」と、がっくり肩を落とした 「御免なさい、お父さん、悪い娘だけど、私は今、とっても幸せなの」 そう言った基子に、隆吾は「天に向かって唾を吐けば、自分に降りかかる お前達の幸せは、百合香の涙の上に有る、と言う事を、忘れるんじゃ無いぞ」 と、重い声で言った、そして「百合香はどうしてる」と、聞く。 「それが、実家に帰ったのかと思ったのですが、、」と、慶次郎が話す。 つい先ほど、実家の妹、桜から、今月の振り込みのお礼の電話が有り 暇が出来たら、姉と一緒に、遊びに来て下さいと いつもと変わらない調子だった。 「まだ、離婚した事は、実家の方には、言っていないようです」 「百合香ちゃん、ご両親に心配かけたく無いから、まだ言えないと思うわ」 基子も、そう言い「まだ家に居ると思います」と、慶次郎が言う。 「そうだろうな、あまりにも急な事に、対応できていないのかも知れんな」 そう言った隆吾は「百合香には、してやるべき事は、したんだろうな」 と、聞いた「はい、私の財産、半分と、百合香が望んだだけの、慰謝料を すでに、振り込んでいます」 「そうか、そんな物で、百合香の傷が癒えるとは思えんが、、」 隆吾は、自分の娘が酷く傷つけた、百合香の事が、一番心配だった。
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