破綻

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もう、一年生なのに、まだおっぱいを飲んでいるなんて、恥ずかしい事だから これは、叔母ちゃんと僕だけの、二人っきりの秘密なんだと 他に誰かが居る時は、絶対にしなかった。 それからも、悲しい事や、辛い事が有ると、百合香に慰めて貰っていたが 10歳になった時、ふと、自分は叔母ちゃんに、痛いの痛いの飛んで行け~を して貰えるけど、叔母ちゃんは、胸が痛くなった時 誰に、痛いの痛いの飛んで行け~をして貰っているのだろうと、聞いてみた。 叔父さん、と言うだろうと思っていたのに 「こうして、史郎ちゃんを抱っこしていると 叔母ちゃんの痛いのは、飛んで行くのよ」と、言う。 驚いて「ほんと?」と、聞くと、百合香は 「ええ、叔母ちゃんは、史郎ちゃんが大好きなんだもの」と言った。 その言葉は、史郎の心を震わせた。 母は、史郎の事を可愛いとか、良い子だとかは、言ってくれるけど 大好きだと言ってくれた事は無い。 母が大好きな人は、自分では無く、どこか遠い所に居る。 史郎は、そう感じていた。 史郎の事を、大好きだと言ってくれたのは、百合香だけだった。 その時、史郎は『大きくなったら、大好きな叔母ちゃんと結婚するんだ』 と、強く心に誓った。 それには、強くならないといけない、だから、少々の辛い事は 百合香に頼らず、ぐっと我慢する様になった。 それでも、百合香が寂しそうな顔の時は、抱かれに行く。 「史郎ちゃんを抱っこしていると、痛いのは飛んで行くの」そう言った 百合香の為に、そして、百合香の痛みを、直ぐに止められる様に 何時でも、傍に居てやりたいと、思う。 中学生になっても、高校生になっても「私は、史郎ちゃんが大好きだもの」 百合香の、その言葉は、史郎の胸の中で、ずっと輝き続けていた。 叔父と、対等に渡り合える大人になったら、きっと迎えに行く。 叔父の手から奪い取って、叔父より俺が、もっと幸せにしてやるんだ。 その思いは、年々大きくなっていった。 その願いが叶ったんだ、本当に嬉しかった。 だが、まだまだ百合香の心は、痛みで一杯だ。 早く、癒してやらなくっちゃ、そう思った史郎は 「約束したドライブに行こうよ」と、言ってみた。 「良いわね」百合香は、直ぐに承諾した、史郎は大喜びで 「じゃ、着替えを取って来るね」「そう?私も一緒に行くわ、ドライブの前に 銀行へ行きたいの」と、言う訳で、史郎は、百合香を銀行まで送り 「終わったら、ここで待っててね」と言って、自分のマンションに帰った。 慶次郎がくれた、100万円は、マンションを借りたり 生活用具を買ったりしたが、まだ残っている。 それを、自分の口座に入れたのだが、出て来た通帳を見て 百合香は、大きく驚いた、見た事も無い数の0が並んでいる。 1億円が2回、合計2億円が振り込まれていた。 百合香は、直ぐに慶次郎に電話をした。 「もう、新しい家は見つかったの?」「ええ、もう引っ越しました」 「そう」慶次郎は、百合香の行動の、意外な速さに驚く。 「今、銀行にいるんだけど、振り込まれている2億円って何?」 「ああ、離婚したら、資産は半分ずつになるって言うのは知ってるよね だから、私の資産の半分、1億円を振り込んだんだ」 慶次郎の資産が、2億も有ったなんて、今度は百合香が驚く。 「そう」「後の1億は、基子からの慰謝料だよ、基子も、君には本当に、、」 そこで電話は切れた「無理も無い、まだ怒っているんだ」 慶次郎は、そう思ったが、百合香は、史郎との事が後ろめたくて 話が続けられなかっただけだった。 史郎と、こうなってしまっては、もう、二人を責める事は出来ないと思う。
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