義理の姉、基子

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身体を離した慶次郎は「百合香、とっても良かったよ」と、囁き キスをして「ゆっくりお休み」と言う。 この瞬間が、百合香は一番好きだった。 本当に愛されているんだ、これ程深く愛されているんだと言う 確かな実感が有る「おやすみなさい」そう呟き 義兄の家で、孤立していると言う基子には、こんな幸せは無いのだろうなと 思いながら、幸せな眠りへと落ちて行く。 基子は、大富豪の家に生まれ、大勢の使用人に、ちやほやされて育った。 だから、我儘で、世間知らずだった。 早くに母を亡くしたので、父親は、基子にだけは甘く、何をしても笑って許す しかし、年頃になって、一人の男と付き合い始めた基子に 「その男は駄目だ」と、珍しく父は反対した。 男の性格に問題が多く、どう考えても、金目当てに 基子を、たぶらかしたとしか思えなかったからだ。 「駄目だって言われたって、もう、子供が出来ちゃったんだもん」 基子の言葉に、父は驚き、どうした物かと、悩んでいたが 酷い悪阻で、弱っていた基子は、階段の途中で眩暈をおこして落ち 流産してしまった、父親は、幾つも持っている総合病院の一つで 産婦人科医として雇っていた、喜一郎を呼び 流産の後始末をさせた、子供を失って、悲しんでいた基子だったが 相手の男は、基子と会えなくなって、金に困り、盗みに入った先で 店に居た店員二人を殺して捕まり、殺人罪で起訴された。 「あの子は、産まれなくて良かったかも知れないぞ、殺人者の子供だと 一生言われ続け、苦しむところだった」父にそう言われ 基子も、やっと目が覚めた。 父の隆吾は、この事を表には出したくなかったので、唯一この事を知る 喜一郎に「傷ものだが、基子と結婚してくれるなら 開院の資金は、全て出す」と言った。 結婚させれば、悪い噂は、立たないだろう、そう思ったのだ。 医学部の仲間が、次々と自分の病院を持って行く中で 資金が無い喜一郎は、唯々羨ましく思っていた。 これはチャンスだと、もう同棲していた女とは手を切り その話に乗って、基子と結婚し、開院できた。 そんな結婚だったので、お互いに打ち解ける事も無く 喜一郎にとって、基子は、煙たいだけの存在だった。 お嬢様育ちの基子は、病院の経営や家庭の事など、何も頓着しなかった。 やっと病院の中を詳しく見る様になった時には、すでに遅く 婦長兼助産師は、夫の元の同棲相手だった。 「何で、あんな人を雇っているのよ」基子がそう言うと 「仕方ないだろう、お前と結婚するために、俺と別れたから 一人で生活しなきゃならなくなったし、人手不足だし 経験豊富なスタッフとして、重宝しているんだ」 いつもは、口答えなど出来ない、気弱な喜一郎だが この事に関しては、一歩も譲らなかった。 「どうでも良いわ」喜一郎には、あまり関心も無い。 その女と、何か有ったとしても、どうでも良かった。 多分、喜一郎の子供だろうが、その女には、三人の子供がいて 今では、三人共、吉野産婦人科で働いている。
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