義理の姉、基子

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翌日の朝、さすがに史郎は緊張した顔をしていたが 大人たち三人は、それぞれ満足した顔をしていた。 試験会場まで、一緒に行くと言う基子に 「お母さん、もう幼稚園児じゃ無いんだぞ」と、史郎は断り 「じゃ、私が、会場まで送って行くよ」 慶次郎は、事務所に出勤する前に、連れていく事にした。 「有難う、叔父さん、お母さんと叔母ちゃんは どこかで美味しいランチでも、食べていてよ」 史郎はそう言うと、慶次郎の車に乗り、見送る基子と百合香に 親指を立てて見せ、元気に出かけて行った。 朝の家事を済ませると、もう二人には、する事は無かった。 「こうしていても、気になるばかりだから、出掛けましょうか」 基子がそう言い「そうですね、史郎ちゃんも、ああ言っていましたから」 百合香も賛成した、史郎の事は心配だったが 滅多に出かける事が無い百合香は、浮き浮きして、取って置きの服を着る。 基子も、若い百合香に負けないようにと、念入りにメイクをした。 二人は、タクシーを呼ぶと、まず受験者の間では、有名な神社へと向かった。 そこで、熱心に史郎の合格祈願をし 基子のお気に入りの和食の店に行って、昼食を取った。 主人自らが出迎え、これ以上は無い位の、もてなしを受ける。 それは、津川家の令嬢、基子だからだが、一緒に居る百合香にも 心地いい物だった。 ただの農家の娘が、こんな有名なお店で、贅を凝らした食事をさせて貰ったり 妹の為に、ぽんと300万円を出してくれたり 百合香は、唯々基子に、感謝するばかりだった。 その後は、史郎の服を買うからと、銀座の店を巡り ブランド物の洋服や、靴、バックなどを買い求め 自分の物も買った基子は「百合香さん、これよく似合うわよ」と 遠慮する百合香にも、強引に、洋服を何枚も買う。 「私、買い物大好きなの」それは良く知っている。 こんな付き合いは、今迄も、何度も有った。 最後に、取ってつけた様に「私達ばかりの物じゃ、いけないわね」と 慶次郎の物も買うのだが、それが一番高い物だとは 値段を見ない百合香には、分からなかった。 試験が終わった史郎は「名前を書き忘れてなければ、合格間違い無しだよ」 と、自信たっぷりに言う。 そして、山の様に買って来た買い物を見て 「また、お母さんは、、、どうするんだよ、こんなに沢山の荷物 俺、持って帰るの嫌だよ」と、口を尖らせた。 「あら、合格間違い無いんでしょ、だったら、ここへ置かせて貰えば?」 「何でだよ」「大学へは、ここから通えば良いでしょ、ね、慶次郎さん」 「私は良いけど、世話をするのは百合香だからな、どうする?」 「私は、史郎ちゃんが来てくれたら、嬉しいばかりだわ」百合香がそう言うと 「止めてよ、叔父さんも叔母ちゃんも、それにお母さん 俺は、もう子供じゃ無いんだ、大学生になるんだぞ 一人で暮らすって、決めているんだからね」 史郎は、これを機に、母の束縛から逃れたい様だった。 「うん、史郎の気持ちも分かるよ、やっぱり大学の近くに マンションを借りたら?な~に、同じ区なんだ史郎の様子は 私達が、ちゃんと見る事にするよ」慶次郎の説得に、基子も渋々同意した。 一人っ子だから、基子は、まだまだ史郎の事が、心配なんだと 百合香は思った後、自分にも、子供がいたらと、基子が羨ましくなる。 贅沢な食事や、お洒落な服より、それが一番羨ましい。 百合香の身体は、不妊治療をすれば、子供は授かる確率は有るが ご主人の方に、問題があるかもと言われた。 だが、慶次郎は、何故か治療には消極的だった。 「不妊治療で、お前の体に負担を掛けたくないし、私も治療は嫌だ」と言う そして「子どもなんか居なくても、私には、百合香さえいれば、幸せなんだ」 と、言い張る、そこまで言うのに、無理に病院へ引っ張っていく訳にも行かず もう、子供は諦めたのだった。
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