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破綻
それから、二年が過ぎた。
ある日、史郎が通う大学の部長が、史郎の祖父、隆吾の元を訪れ
史郎の事を褒めちぎった。
「史郎の奴、そんなに優秀なのか」隆吾は、嬉しそうに目を細める。
「それはもう、常にトップの成績なのに、更に努力を惜しまないのですから
こんな熱心な学生は、今迄に見た事が有りません。
きっと、世界に羽ばたく、スーパー外科医になるでしょう」
「父親と同じ、産婦人科を選ぶと思っていたが、外科を選ぶとはね」
「まさに、隔世遺伝と言う奴でしょうな、先輩にそっくりなんですよ」
「そうか、そうか」隆吾は嬉しかった。
脳溢血で倒れ、半身に麻痺が残って、もうメスは握れないが
それまでは、凄腕の外科医として、国の内外で認められ、活躍していたからだ
たった一人の孫が、そんな自分の後を継いでくれそうだと
心の中で、万歳をする。
その史郎は、勉強の邪魔になるからと
基子が自分のマンションに来る事を、禁じていた。
本当は、百合香を裏切っている、不謹慎な母を、許せなかったのだ。
「史郎ったら、酷いわ」そう愚痴る基子に
慶次郎は「良いじゃないか、もう、子供じゃ無いんだから。
それに、どうせ史郎の所へ行くって言う口実で、出て来たんだろ?」
「そうだけど」そう言いながら、二人は
人里離れた、小さなホテルに入って行く。
その後を、こっそり付けている男が居た、喜一郎の元同棲相手
博子の長女の夫、川谷だった。
川谷は、基子から「もう、証拠品は、山の様に有るから
これで終わりしましょう、貴方も、こんな付き合いがばれたら、困るでしょ」
と、言って、もう証拠品を買ってくれなくなった。
仕方なく、一応カメラマンの川谷は、二流雑誌に、写真を投稿して
小遣いを稼いでいた、その日も、渓流の写真でも撮ろうかと
やって来た所で、基子の姿を見つけたが
「あれは、慶次郎さん」院長の弟なので、川谷も良く知っている。
二人は、義理とは言え姉弟だから、一緒に居てもおかしくないが
二人は、異様にぴったりと寄り添って歩く。
あれは、、、普通の仲では無いと、川谷は見破った。
「しめしめ、こっちの方が金になるぞ」川谷は、慣れたもので
二人の部屋を突き止め、そのドアが見える所に隠れると
カメラを構えて、じっと待つ。
やがて出てきた二人が、キスを交わしている所を、上手く撮り
その後も、二人が行く先々の姿を、全て撮った。
「さて、上手く撮れたが、これをどこに持って行くかだな」
基子に持って行っても、ゆするどころか、怒った基子に
院長と義母の不倫写真を撮った事を、院長に、ばらされてしまう。
慶次郎にしても、同じ事だ、基子に相談するに決まっている。
そうだ、慶次郎の妻が良い、だがここも、自分が撮った物だとばれると
何にもならない、自分の存在を隠して、この事を知らせるには、、、
川谷は、考えた末、百合香が、買い物に出かけた後で
こっそり、家のポストに封筒を入れた。
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