義理の姉、基子

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義理の姉、基子

東京の郊外にある、吉野家のいつもは 夫の慶次郎と百合香の、二人きりの静かな朝食だが、その朝は賑やかだった。 大学の受験が有る、息子の史郎を連れて、義理の姉、基子が来ていたからだ。 基子の夫、吉野喜一郎は、横浜で産婦人科の病院を経営していて 史郎も、日本一だと言われる有名な大学の、医学部を受験する。 横浜から東京までは、近いけれど、何か有って受験に遅れてはいけないと 二日も前から来ているのだ。 基子は、一人息子の史郎を溺愛していた。 慶次郎と百合香には、子供が出来なかったので 史郎を、我が子の様に可愛がっていた。 史郎も、厳格な父より、優しい慶次郎の方に懐いていて 小さい頃から、しょっちゅう、慶次郎の家に遊びに来ていた。 史郎が来ると、何時もは口数が少ない慶次郎も、よく喋るし 子供好きの百合香も、史郎が来るのが嬉しくて 何でも言う事を聞いてやり、甘やかしてしまう。 その史郎が、あまりにも愛くるしく、女の子の様な顔だったので 4歳の時、基子が女の子の服を買って来て、百合香と一緒に着せて 「わぁ~可愛い‼!」と、喜んでいたら 「男の子に、なんて事を!!お前達、いい加減にしないかっ」と 慶次郎に、怒られた事が有った、その話をすると 「酷いな~お母さんと叔母ちゃん、俺を玩具にしていたんだ」と 史郎が、ほっぺを膨らませる。 「だって、本当に女の子みたいに可愛かったんだもの、ね~」 基子が、百合かに同意を求める。 「ええ、まるでお人形さんみたいに、可愛かったですよね~」 百合香も、当時を思い出してそう言った。 その時、百合香の携帯が鳴り、妹の桜が、知人に会うために出て来たから 会えないかと言う。 「受験は、明日だから、今日は、もうする事も無いし、久しぶりに会って ご両親の様子も、聞いて来なさい」慶次郎はそう言うと 支度をしている百合香に、二万円を渡し 「これで、何か美味しい物でも食べておいで」と、優しく言った。 「はい」百合香は、そのお金をバックに入れて、いそいそと出掛けて行った。 百合香の実家は、埼玉で農家をしている。 両親だけでは、手が足りず、百合香も高校を卒業すると、家の仕事に就いた だが、いくらも経たないうちに、横浜の病院で出産した 親戚の見舞いに行った先で、慶次郎と知り合った。 慶次郎は、積極的だった、直ぐに家まで来て、百合香と結婚したいと申し出た 仕事は、公認会計士で、自分の事務所も持っているし 兄は、病院の院長だと言う、申し分のない慶次郎に、両親も喜んだ。 二つ年下の妹、桜も「後は私が、引き受けるから」と、背中を押してくれ 百合香が嫁いだ後、婿養子を取って、頑張っているが 働き過ぎた両親は、この頃、足腰が弱り、畑仕事もままならない。 子供は、まだ中学生と小学生で、桜の暮らしは、楽では無かった。 本当なら、長女の百合香が、両親の面倒を見なくてはいけない所だからと 慶次郎は、結婚した当初から、ずっと毎月20万円を 実家に仕送りしてくれている。 天候や、景気に左右される、野菜農家にとって 毎月決まったお金が入るのは、大いに助かる。 慶次郎さんは、本当に優しい人だと、実家の皆は喜んでいた。 百合香も、感謝の言葉を言うと 「良いんだ、俺達には子供がいないからな その分だと思えば、何でも無いよ、百合香が心配する事は無い」と 慶次郎は、優しく言ってくれる。
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