28.嫌な予感

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「おかえり。ごめんな、俺もさっき帰ってきたところで、今日も夕飯手抜きになっちゃうかも」 「ううん……いいです、けど……」  私はまだ見えている女の人の後ろ姿に視線を向ける。 「風邪ひくよ。帰ろう」  背中を押されて、振り返りたい衝動を邪魔されてしまった。あの女の人はなんだったんだろう。すらりと細身で髪が長くきれいな人だった。少し気が強そうだったけれど美人という言葉がぴったりだ。 「高比良さん、さっきの人はいいんですか?」  気になりすぎて、つい口からこぼれてしまった。きっと本当は聞いてはいけないことだ。 「……」  案の定、私に背を向けたままの高比良さんは黙り込む。 「……もしかして、みさきさん?」  なんとなくそう思っただけだ。  私が知っている高比良さんの周りの人は彼女しか知らないので、女性イコールみさきさんという構図にならざるを得ない。  高比良さんはしばらく黙ったまま、エレベーターのボタンを押した。 「……そうだよ。ごめんな朝子ちゃんのマンションで話したりして」 「それはいいんですけど、でも……」 「あー腹減ったはやく飯食いたいよ」  はぐらかされてしまった。  これがずるい大人というものらしい。はぐらかされてしまったらそれ以上聞けなくなってしまう。
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