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「あ、おかえり」
前で当たり前のようにおかえりと言う。家の中を見渡すと、恐らくいつもと変わらない。家が空っぽでなくてよかったという安堵と、単純に混乱していた。
「っ! な、なんでいるんですか!」
「鍵預かったから」
「ポストに入れておいてって言いましたよね……」
走ってきたせいもあって足の力がなくなっていく。へたりと床に座り込むと、おじさんは近寄ってきて、大きな背をかがめて両膝に手をついて、私の顔をのぞき込む。
「朝はゆっくり話ができなかったからね……お願いがあるんだ。ごはん食べながら話さない?」
「え?」
顔を上げるとへらへらした顔はなく、真剣な表情があった。
その表情はどこか迫力があったので私は「帰ってください」と言うことはできずに頷いていた。
今朝のように小さなテーブルに次々と並べられていくお皿。普段自炊をしないので、こんな柄のお皿あったっけと思うほどだ。
「……おいしそう」
テーブルに並んだのは、お味噌汁、お新香、ほうれん草の胡麻和え、鶏のそぼろ丼だ。炒り卵も乗っている。いい匂いにこくりと喉が鳴る。
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