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母親が小学2年生の時に他界し、俺は父親と二人で暮らしていた。大学病院で医師として勤めていた父親。俺が淋しい思いをしない様にと個人病院の医師となり、懸命に育ててくれていたんだ。今もその病院に勤めていたとは知らなかった。きっと親父は真面目過ぎたんだろう。誰も頼れず俺を育てて居たから、愛情が捻じ曲がってしまったんだ。そんな綺麗事みたいな気持ちを抱えて、あきの車で親父の元へと急いだ。
最近お父さんの帰りが遅いな、なんて我が儘を言ってはいけないと知っていた。宿題をしながらお父さんの帰りを待っていた。今日はお父さんに何を話そうかな。何を話したら喜んでくれるかな。でも、お腹が空いてきた。ちょっとお昼寝でもしようかな。
「のん、起きなさい。」
僕は本当に寝てしまっていたみたいだ。お父さんが僕を揺すりながら、起こしてくれていた。寝惚け眼で、目を擦りながらお父さんにしがみ付いた。
「お父さん、お帰りなさい。」
「ああ、ただいま。ご飯にしよう。」
二人で夕食を摂りながら、僕は学校での話をいっぱいした。
「それでね、あきくんがね、、。」
興奮気味に話していたが、お父さんが余り聞いていない様な気がした。話を止めてお父さんの顔を覗き込む。
「あ、ごめんな。ちょっと疲れているみたいだ。」
「じゃあ僕がお風呂のお湯溜めて来てあげるよ。」
お父さんの気を引きたくて仕方が無い僕は、お風呂場に駆けて行った。お父さん、お仕事忙しいのかなぁと考えていた。お風呂で元気になってもらおう。
「お父さん、お風呂溜まったよ。」
「のんも一緒に入ろう。」
そんな他愛も無いやり取りをし、一緒にお風呂に浸かる。お父さんの元気も少しずつ戻って来た気がした。ふいに僕は手を掴まれた。お父さんは僕の手を股間に持っていった。
「お父さんね、ここを触られるととても元気になれるんだ。」
お父さんが元気になるならしてあげたい一心で、そこに触れた。とても硬くて怖かったけれど、お父さんの声が優しいから一生懸命に触れた。
俺は目を覚ました。何時の間にか寝てしまったみたいだ。煙草に火を点ける。「くそ親父」と呟きながら、煙草の煙を勢い良く吐いた。
「のんちゃーん。手伝ってー。」
店長の助けを求める声が聞こえて、点けたばかりの煙草を消しレジに向かう。この本屋で大学生活の合間を縫ってアルバイトをしている。俺は学力だけはあり特待生だが、生活費を稼がなくては生きていけない。楽しい事なんて何もなかった。やりたい事もなかった。同級生は就職に向けて動き出している。周りに置いて行かれている気がして、大学院に進もうかと悩んでいる最中だ。問題は金だ。
「つまんねぇ人生だな。」
自嘲しながら、淡々とアルバイトをこなした。これから俺がどう生きようが煩く言う人間は誰もいない。死んでしまっても誰も何も言わない。段々、気持ちが暗くなった。帰ったらビールを飲んで寝てしまおう。行き交う文庫を流し見ながら、詰まらない人生を絶ちたいと思った。そんな自分に苛付いて煙草を吸いたくなった。店内を見渡すと客足も随分捌けた様子だった。店長に一服する許可を貰う為に隣のレジに顔を向けた。
「のんちゃん、、、、。」
店長の顔を捕らえる前に、見覚えのある顔が俺の名前を呟いていた。その顔は俺に向かって、笑顔を向けた。綺麗な顔立ちのその男が誰なのか、俺は理解出来ず記憶を辿ってみた。
「ねぇ、のんちゃんだよね?}
俺は頷くも、こんな綺麗な顔の男を忘れているのかと自分を問いただす。
「分かるかな。昔、隣の家に住んでたんだよ。」
その男は満面の笑みで返した。俺の記憶が一瞬ぐるっと巡った。
「あき」
その単語が見付かり、俺は目を見開いて言葉にした。あきは更に笑顔になり「久し振りだね」とホッとした様に言った。
店長と締めの作業を終わらせ店内を後にした。何も言わないでいてくれたのは店長の優しさなんだろう。店の外は帰宅ラッシュで揉みくちゃにされたサラリーマンたちが帰路に着いている。寒さを増した暗闇を、街灯が照らして輝いている。俺も寒さで首に巻いたマフラーを握り締めた。すると目の前に人の気配がして顔を上げる。
「のんちゃん、お疲れ様。行こうか。」
あきはせっかくだからと、仕事の後にと俺を飲みに誘って来た。俺はどうでも良かったが、断る理由も無かったので承諾した。肩を並べて歩きながら、あきの事を思い出していた。所謂、幼馴染と言う類の関係である。産まれた時から隣の家に暮らしていて、中学まで同じ学校に通っていた。俺が家を出るあの日まで、ずっと一緒だった。同じ位の身長だったのに、今ではあきの方がでかい。もう社会人なのかスーツを着ているので、あきの方がずっと大人の様に見えた。落ち着きのある物腰は、幼い頃から変わらなく懐かしい感情に飲み込まれた。
「ここにしよう。」
俺が想いにふけっていると、あきが居酒屋を指差した。こじんまりとした居酒屋だった。俺は頷いてあきの後に続いた。席に通され俺たちは向かい合いながら座る。少し気まずい感じがした。あきの方を見ると、至極穏やかな顔でこっちを向いていた。
「会えて良かった。ずっと心配だったんだよ。」
あきが何で俺に構うのか分からなかった。俺は余り他人に干渉する方ではない。付き合いも下手だった。そんな俺に気を使ってか、あきは静かに語っていた。地元の高校、大学に進学した事。半年前に両親が交通事故で他界し、大学を中退して就職した事。最近、異動でこの地に引っ越して来た事。あきは淡々と話してくれた。
「あんたも大変だったんだな。」
俺はポツリと呟いた。あきが俺なんかとの再会に喜んだのは、両親を亡くし知らない土地に来た淋しさ故なんだろう。
「のんちゃん、お父さんとは連絡取ってるの。」
ハッとした。俺は親父の事をすっかり失念していた。幼馴染なら当然、親父の事を知っている。俺は再会に浮かれていたのかもしれない。こんな質問が予測出来ないなんて。
「ごめん。嫌な気持ちにさせるつもりはなかったんだ。気になってたから。無理に話さなくて良いんだよ。ごめんね。」
あきは優しくそう言うと、ハイボールを口に運んだ。俺は煙草に手を伸ばした。静かに煙草を燻らせると、少しの沈黙が走った。あきが余りにも優しい眼差しで俺を見るから、全て見透かされている様な気持ちになった。
「親父とは、、、連絡、取ってない。」
絞り出す様に答えると、あきはまた優しく微笑んだ。あきの整った顔がとても綺麗だった。きっと俺には出来ない優しさの溢れる表情。それは幼い頃から変わらない。
「俺は家がこの近くなんだよ。」
話題を切り替える様に、あきが言った。俺はその事に若干の安堵を覚えた。酒の所為もあり、話が弾む。俺も久し振りに上機嫌で話に夢中になる。こんなに心が休まるのは、何時振りだろうと考えたが分からなかった。あきには何とも言えない、安らぎがある。一緒に居て心地が良かった。俺は子どもに戻った様にはしゃいでいた。あきとずっと居たいと思う程に。楽しい時間はあっという間に過ぎて行った。住んでいる場所も近く、居酒屋を出てからも途中まで二人で帰った。俺たちはまた会う事を約束した。
手が身体を這いずり回る感覚。俺の身体を弄っては興奮する親父。気持ち悪い行為であると、小学4年生くらいから思う様になった。年齢が上がると共に行為がエスカレートしていった。俺は完全に親父の玩具だった。普段は頼れる親父だが、夜になると変貌する。中学に上がる頃には完全に開発されていた。「誰にも言ってはならない」と言われ続けていた。誰にも言えるはずがなかった。俺は現実逃避をしたくて、勉強に没頭していた。そのお蔭で優秀な子だと評価されていた。勉強をしている時だけが、俺の安心出来る時間。
「勉強ばかりしていないで、ちょっと休憩しなさい。」
親父は俺の後ろに立って、頭を撫でて来る。「またか」そう思いながら、俺は勉強をする手を止めた。俺を勉強机から引き剥がすと、寝室に連れて行かれる。親父が俺の服を脱がす。俺の身体に舌を這わせる。胸の突起を右手と舌で蹂躪する。俺は気持ち悪いと思っているはずなのに、甘い吐息を漏らしてしまう。
「あ、、、、ふ、、ん。」
それに益々興奮する親父。余った左手で俺の前を扱き出す。執拗に弄られ俺は達しそうになる。
「まだ、逝っちゃ駄目だよ。」
親父は扱いていた手を放すと、縄を使って俺の前を縛る。逝ってしまいたい俺は苦しさを覚えた。親父はまた、縄を取り出し俺を緊縛した。片手、片足を固定され身動きが取れなくなった。恐怖で顔を歪ませた。親父の指が蜜部に差し込まれた。
「んん、、、、あぁ。」
開発された俺の身体は素直に反応する。親父はそれを楽しむ様に、指の抜き差しを繰り返す。俺はもう息も絶え絶えだ。
「もう、逝きたい。」
俺の願いは受け入れて貰えなかった。それどころが行為は激しくなって行く。指の抜き差しに加え、前も扱かれた。
「のんちゃんは雌逝き出来るでしょう。」
それは嫌だった。言葉にならず、首を横に振る。親父は更に興奮した様だった。蜜部から指を抜き、ベッドの横にあるボックスを漁り出す。前は扱いたまま。俺は苦しさで一杯だったが、親父が何かごそごそしているのは気が付いていた。親父は取り出した物を、笑顔で俺に見せた。バイブだった。
「今からのんちゃんに使ってあげるね。」
「嫌、、、、い、やぁ。」
俺の必死の抵抗も虚しく、バイブが挿入された。親父はバイブのスイッチを入れた。
「え、、、、あああああああ。」
狂った様に喘いだ。回転しながらピストンをするそれに耐え切れず、脳内で達してしまった。それでも止まないバイブ。俺は本当に頭がおかしくなりそうだ。狂った様に喘ぎ、何回か脳内で達する。親父は興奮しきった顔で、バイブを抜き取る。俺の前を縛っていた縄も解いた。
「さぁ、まだまだだからね。」
親父はそう言うと、ズボンのチャックを開け自らの肉棒を露わにした。ギンギンに反り上がった肉棒を、俺の蜜部に押し込んだ。
「う、、あ、あ、、、、あ、はぁん。」
押し込まれた瞬間俺は、達した。親父はそれも無視して、腰を振り続けた。擦られる感覚に、何度も達してしまう。
「凄く良いよ。のんちゃんは良い子だ。」
遠のく意識の中、親父のうっとりする声が聞こえた。
目覚ましのアラーム音が部屋中に煩く響く。俺は身体を起こした。今日はあきと映画を観る予定がある。あきと再会してから俺の人生は変わった。少しだけ光輝いていた。あきと一緒に居ると心が安らいだ。あきの優しさにどんどん引き込まれていた。空気の入れ替えをしようと窓を開ける。乾いた空気が漂い、如何にも冬らしい。冬の空は何処か淋しさを覚える。俺は煙草に火を点け、ワンルームの窓際に座った。外に煙を吐く。煙が自由に漂い、消えていく様を眺めていた。煙草を吸い終わる頃には、寒さを覚え窓を閉める。時間も差し迫っていた。急いで準備を整え着替えも済ませた。すると、あきから「着いたよ」と連絡が入った。アパートの外に出ると、あきの車が停まっていた。俺は助手席に滑り込む。あきは笑顔で迎えてくれる。俺たちは「おはよ」と言葉を交わし、商業施設に向かった。あきの会社の話や俺の論文の進捗状況等、会話は途切れなかった。あっという間に商業施設に到着した。映画のチケットを購入し、時間までウインドウショッピングを楽しんだ。
「のんちゃん、危ないよ。」
人にぶつかりそうになる俺の手を引っ張る。そんなあきの行動に気恥しくなる。俺は恥ずかしさを紛らわせる為に喫煙所に行くと宣言し、煙草を吸いに向かった。
俺は失敗したかなと思った。のんちゃんはきっと、身体に触れられる事に恐怖を感じてしまう。昔の経験がそうさせてしまうんだろう。のんちゃんの事情は知っていた。子どもながら、のんちゃんを救ってやりたいと考えていた。何も出来ないまま、のんちゃんは地元を離れてしまった。偶然の再会を果たしたが、のんちゃんはまだ呪縛に囚われていると確信した。すっかり人間不信になっているのんちゃんを、今度こそ救ってやりたかった。俺は幼い頃からのんちゃんに、恋をしていたからだ。
映画も観終わると、すっかり夕方になっていた。飲みに行こうという話にまとまった。車を置きにあきのマンションまで来た。場所は何となく知っていたが、あきのマンションに来たのは初めてだった。立派なマンションだ。
「あんたの部屋で飲みたい。」
俺はあきの部屋が見てみたくなった。どんな生活をしているのかと。一瞬驚いた顔をしたあきだが、直ぐに了承してくれた。俺たちは酒を調達しに行き、あきの部屋へと入る。充分な広さのある1LDKの部屋だった。とても綺麗に整理整頓もされている。俺は周りを見渡して感心していた。
「どうしたの。立ってないで座りなよ。」
ソファーに案内され、隣同士に座る。乾杯をし飲み始めた俺たちは、どんどん酒を空にして行く。かなり酔っ払ってきた。あきと飲む酒は格別だった。酔っ払って来た俺が、あきの肩に頭を乗せる。あきは優しく頭を撫でてくれた。ずっと一緒に居られたら良いのに。そんな風に思いながら、俺は眠りに落ちた。
俺はあれから、あきの部屋に入り浸っていた。あきの帰りを待ちながら、夕飯の準備を始めた。鼻歌なんて歌いながら唐揚げを揚げる。俺はあきと居る様になって、上機嫌だった。お互いの淋しさを紛らわせているのかなと思っていた。鍵の開く音がして、あきが帰宅したのが分かった。
「おかえり。」
「のんちゃん、ただいま。」
お互い顔を見合わせて、微笑んだ。俺たちは夕飯を共に済ませて、ソファーでくつろぎながらテレビを観ていた。俺たちの笑い声が部屋を包む。突然、俺のスマホ鳴りだした。知らない番号からの着信だった。俺はスマホを持って、換気扇の下に行った。煙草に火を点けた。スマホは鳴り止まない。あきが心配そうにこちらを見た。俺はスマホに煩わしさを感じたが、通話ボタンを押し耳に当てた。
「のんちゃん早く。」
俺たちは急いで車に乗った。電話は地元の警察からだった。親父が務める病院で火事があり、残業をしていた親父は重症らしい。放火だったらしい。俺は複雑な想いを抱えながら、親父の入院している病院をあきと目指した。
親父の元へ到着した。間に合わなかった。親父の同僚が何度も謝ってくれていたが、俺は放心状態だった。
「何かがあったら、これをあなたに渡すようにと。」
そう言って封筒を渡してくれたのは、親父と同棲をしているという女性だった。同じ病院で看護師をしているらしい。中を見ると封をされた手紙と通帳、印鑑が入っていた。俺はハッとしその手紙を開けた。そこには今までの事を詫びる後悔の言葉と、俺の為に積み立てをしていたという内容がびっしりと書かれていた。俺の目からは自然と涙が零れていく。泣き崩れそうな俺を、あきが傍でずっと支えてくれていた。「くそ親父」俺はひたすら涙を流した。
葬式等を済ませ、あきの部屋に帰って来た。忙しい日々もあっという間に過ぎてしまった。淋しさを覚え、後ろからあきに抱き着いた。
「俺さ、あんたの事、好きみたいなんだ。」
背中に顔を埋めて、振絞る様に伝えた。あきは一瞬戸惑った様だったが、俺の方を向き頭を撫で抱き締めてくれた。
「嬉しいよ。俺ものんちゃんの事、昔から好きだったよ。」
「俺も、、、、。」
「ねぇ、キスしても良いかな。」
見つめ合いながら、俺は頷いた。唇が重なる。安堵が身体中を走る。
「のんちゃん、これから一杯楽しい想い出作ろうね。」
あきの言葉に、俺たちは微笑み合った。おでこを付けながら、好きだと何度も伝えた。
「俺の事、抱いてくれ。」
「のんちゃん、怖くないの。」
「幸せな行為だって教えて欲しいんだ。」
あきは俺を抱えて嬉しそうに「勿論」と言って、キスの雨を降らせた。そのまま、寝室に向かい、あきは優しく俺を押し倒した。素直に幸せな時間だった。
「あき、大好き。」
もう嫌な夢は見なくて済みそうだ。
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