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グッと涙をこらえながら深く息を吸い込む。
でも話を聞いて貰う相手は城田君。
私と秀也君のどうのこうのなんて話せる訳も無い。
それに。
今更思い出した。
告白の返事がまだな事を。
でも、そんな城田君の優しさに少しだけ触れたくて。
都合が良いだけかもしれないけど。
少しだけ、ほんの少しだけ聞いて欲しくて私は…。
「容量オーバーで…最近。踏ん張りが効かなくなって休み頂いたりしてたんだ。」
「そうか…。アイツの家の仕事ってそんなに辛いの?」
「う…うん、まあまあかな。」
「休み貰いたいと思う位だもんな。大変なんだなきっと。」
「…でも仕事だからねっ、皆さ、その…毎日頑張って働いている訳だし…うん。」
「…。」
「ん?」
覗う様にして私の顔を見てくる城田君。
何か言いた気な様子で。
「いや。何でも無い。」
「お待たせ致しました。」
注文したつけ麺が運ばれて来た。
「お、来た来た。食べるか。」
「うん。」
一口食べると腰のある麺で私は一瞬で好きになった。
魚貝系の濃いスープが更に食欲をそそる様で城田君は替え玉をしてそれもペロリと食べてしまった。
「あ~食った食った。」
お腹を摩りながら満足顔の城田君。
「目の前で男の人が沢山食べるの見るの結構好きなんだ私。」
「男の人と食事する機会多いの?」
「あぁ…いや、多く無いけど前のバイト先でとか大食いの番組見てたりしてるからかな。」
「それは実話っぽいな。」
ボソッと呟く。
「え?」
「さっきの。仕事で疲れてるみたいな話。そんな話をしたかったんじゃ無いんじゃないのかなと思って。」
…っ。
城田君は意外と鋭かった。
図星だったけど、自分で話し出した事なんだけど詳しくはやっぱり話せないから。
「やっ、やだなもぉ。本当にさちょっと疲れ気味なんだよね、はは。」
なんとか取り繕ってみる。
「そう。でも凹んでる時に側に居てくれるヤツが今は俺で。それが嬉しかったりする。」
「今日は本当偶然だったよね。」
城田君になんとなくだけど話を聞いて貰えて重たかった気持ちが少しだけ軽くなったのは事実だった。
だけど嬉しかったなんてそんな風に言われたら今度は罪悪感で一杯になる。
城田君に気が無いのに。
苦しいからって話聞いて貰うだけなんて。
それで結果また悪循環になって自分を苦しめてる。
私は一体何がしたかったんだろう。
「今日はありがとうね。お礼に御馳走させて。」
せめて食事代はと申し訳ない気持ちで伝票を手にした時。
バッと私のその手を掴んできた。
「俺待ってるから。まだ新谷の事当分の間好きでいる自信あるから。覚えておいて。」
揺らぐ事の無い目つきに私はドキッとした。
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