506人が本棚に入れています
本棚に追加
「新谷さん。」
リビングの掃除機をかけていると黒岩さんに呼ばれた。
スイッチを切り振り向く。
「お疲れ様です黒岩さん。」
「少し遅くなってしまいましたが先日は来客の方のお茶出しを頼んでしまってすみませんでしたね。」
「いえ…大丈夫です。」
「新谷さんも最近は全体的な仕事を任せられる位になってきて頼もしいですね。その調子で頑張って下さい。では。」
「はい。」
黒岩さんにしてはご機嫌の良いセリフに驚いた。
どうしちゃったんだろう…。
そして私は再び掃除機をかけ始めた。
『俺待ってるから…。』
はっ。
突然頭にこの前の城田君が浮かぶ。
あの眼差しは本心だったと思う。
思い返してみても胸がまたドキッとした。
仕事中にこんな事…。
フルフルと頭を振り掃除に集中する。
残っているスペースも終わりリビングを出ると秀也君とばったり会った。
顔を見るなり体中の血管がキュッとなったみたいな変な感覚に襲われた。
そのせいか出てくる言葉も辿々しくて。
「あぁ…うん、そう、今、話してて…掃除機…。」
「…?」
「掃除機…かけて、あぁ違っ、しまいに…」
スッと秀也君の横を通って掃除機をしまいに行く。
用具置き場にしまい扉を閉めた。
「ちょっと来て…。」
柱の陰に引っ張られる。
顔が近づいて来てまた唇を重ね様とする秀也君。
フイッと背けた私。
「黒岩さんが近くに居るから…今さっき話してたの…だから。」
「さっきすれ違って二階に上がって行ったから大丈夫。」
そして頬に触れられ顔を戻される。
再び端整な顔が近づいて来たその時。
「あれ?新谷さん知らない?今リビングで掃除機かけてたと思ったんだけどな。」
私達の近くで須藤さんが私を探している様だった。
「はっ…はい!」
そう返事をすると私は直ぐに須藤さんの元へと走って行った。
秀也君の方を振り向く事無く…。
最初のコメントを投稿しよう!