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家に着く迄私達は一言二言話をしただけだった。
私は秀也君に対して沢山聞きたい事があったはずなのにこの前城田君に本心じゃ無いけど話せたのが良かったみたいで溢れる気持ちをなんとか抑える事が出来ていた。
チラリと横に居る秀也君を見上げてみる。
整った横顔が真っ直ぐ前を見ているだけで私には気づいていない。
「どうぞ。」
ガチャリと扉を開け秀也君を招き入れた。
「適当に座ってね。私は夕飯の支度しないといけないから。あ、お茶出すね。」
秀也君はダイニングテーブルの椅子に腰掛ける。
私は玉露のお茶を煎れて秀也君の前にそっと置いた。
「…。」
特売日だった為スーパーの袋が二つパンパンになってしまっていた。
ガサガサと今日使う物と冷蔵庫に入れる物の仕分けを始めていく。
お母さんの好きなきんぴらごぼうをと人参と泥つきごぼうをシンクでまず洗う。
しっかりと泥のついたごぼうを水を出しながら落としていく。
ジャー…。
フワリ後ろで何かを感じると思ったと同時にごぼうを握った私の手に秀也君が重なっていた。
「暇…。何時まで洗ってんの?」
「びっくりしたっ。」
「あぁ、もっと力入れてやんないと落ちないな。タワシあるか?」
「う、うん。」
そう言うとそのままの体勢で私を胸に囲いながら一緒に手を動かしていく。
ザッ、ザッ、ザッ…。
家事なんてやった経験無いはずなのに手慣れた手付きで泥を落としていく。
暫くすると綺麗な白のごぼうが出てきた。
「こんなもんかな。後は切れば良いんだよな?」
長い指で包丁を躊躇無く握りごぼうを切っていく。
「秀也君、料理した事あったんだね。あの、私ここに居たら切りずらいんじゃ、、」
「ねぇよ。」
「え?嘘でしょ?」
「嘘じゃねぇよ。たまに飲み物とか取りにキッチン行くと食事係の人がやってんの目に入るからなんとなく思い出しただけ。」
「え?それだけでこんな出来るの?器用なんだね。凄いよ。」
「珍しく褒めたな。」
「…っ。」
フッと頬に唇が当たる。
「さっき出来なかったからな。」
斜め上を見上げると嬉しそうに微笑む秀也君が居た。
ブブブ…。
スマホが振動している。
「あれ?私のかな。」
「いや、俺の。」
ズボンのポケットに手を当てながら。
「はいもしもし…うん…良いよ。どうしたの?」
声色が優しい。
私は直ぐに相手が誰なのかが分かった。
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