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秀也君は電話に出るなり別の部屋へ移動した。
電話で話す時大体の人が周りを気にして場所を変えるのは分かるけど私の目の前でなんて。
しかも多分相手は由紀乃さん。
疎外感で苦しくなる。
…ふと、思い立つ。
そおっと足音を立てないように部屋に近づく。
こんなこそこそした真似、秀也君を信用して無いみたいで良心が痛む。
だけど…。
もうずっと晴れない気持ちが先走って私の足は止まらず扉に耳をつけた。
「お母さんが?…そうだよね。そうか…うん…分かった、知花ちゃんまたお迎え行けそうなら行くから連絡して。」
私は扉から耳を離し後ずさりする。
知花ちゃん…。
なんか…分かっていたのに…その名前とか聞いちゃうとやっぱり。
ポタッ…。
床に弾ける一粒の涙。
私は静かに料理を再開しにキッチンに戻った。
人参も切ってごぼうと一緒に油のしかれた鍋に入れ炒める。
その後調味料を幾つか入れ煮込み始めるとグツグツと沸騰してきて香りが立ちこめる。
暫くすると白かったごぼうが茶色に染まって私はその変わりゆく様子をじっと見つめていた…。
カチッ。
火を止める。
すると話しを終えた秀也君がこちらに戻って来た。
私の涙ももうとっくに止まっていて。
「悪い長くなって…あ、きんぴら出来上がったのか。良い匂いだな。」
そう言う秀也君に私は。
「ごめん、もうお母さん帰って来るから。」
チラリと時計に目をやる。
「そんな時間か。電話が長引いてあんま居られなかったな。」
「…。」
「帰るよ…。」
俯き少し寂しげな表情を浮かべている。
でもそんな秀也君を見ても今の私は何の言葉も掛けられない。
エレベーターに乗り込み二人でエントランス迄降りた。
じゃあまた…と言って私に背中を向けて歩き始めた秀也君に私は。
「友達に戻って下さい…。」
私の限界だった───────。
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