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「っしゃー!全員合格ぅ!」
クラスのムードメーカー、村田くんの一声で、教室中に歓喜の叫びが響き渡る。
皆の表情は、受験が終わったことによる解放感と安堵に溢れていた。
今日こそちゃんと、皆に伝えないと。
膝の上で、拳をぎゅっと握った。
「結局ライライ、戻ってこなかったね……」
「このまま先生、卒業式も来てくれないのかな?」
女子達のひそひそ話に怖じ気づきそうになるけれど、逃げるわけにはいかない。
「あの!!」
勇気を出してお腹から声を出した。
足がガクガクしながらも、教室の前に出る私を、皆怪訝な表情で見つめている。
「……私のせいで、先生が大変なことになって……本当にごめんなさい」
深く頭を下げると、教室内がざわめき出した。
「だからさ、謝られても……」
「先生戻ってくるわけじゃないし」
「ごめん。それでもどうしても、皆に聞いてほしいことがある」
静まり返る教室。冷たい視線。
許してもらえないことはわかってる。だけど、先生の汚名だけは晴らさないと。
「あの写真……二枚目は嘘なの!キスなんてしてない。いや、あの……私はしたかった。実際頼みこんだけど!」
「……なんの話してるん?」
呆れられても、もうこの際袋叩きに遭ってもいい。きちんと誠意をもって伝える。私にはそれしかできないから。
「だけど先生は、絶対にそんなことしなかった!皆の先生でいたいからって。それだけは、伝えたくて……。もちろん、先生達にも何度だって説明しようと思ってる!どれだけ時間がかかっても、先生の潔白だけは証明するから!」
「フェイクってこと?」
楠原さんの問いかけに、こくりと頷く。
「じゃあ、付き合ってたわけじゃないんだ」
「……付き合ってはいない、けど。思いは通じあってる」
顔を上げて、胸を張って答えた。
……この恋は過ちなんかじゃない。
自信なさげに答えたら、今まで向き合ってくれた先生に失礼だから。
「…………あー!もう!ノロケはいいよ!」
麗ちゃんが、心底呆れたように言った。
「あのさ、私が春ちゃん怒ったの、別に付き合ってたことにじゃないからね!なんでもっと上手くやらなかったのかってことよ!」
「麗ちゃん……」
「私ならもっとずるく、上手くやれたと思うよ!?でも、選ばれなかったから!……ライちゃんは、あんた選んだんだから!」
予想外の言葉に驚いて何も言えなくなってしまうと、麗ちゃんはふっと笑った。
「……なんだかんだ言ってさ、ここまでずっと先生好きだったの、春ちゃんくらいだよ」
「え!?」
間抜けな声を出すと、クラスの皆が笑い出す。
「皆どっかで、諦めてたんだよね。先生は観賞用っていうかさ。だって皆、普通に彼氏いたし」
「え!?」
もう一度どっと笑いが起きる。
「何があっても先生のこと好きでい続けた、春ちゃんの勝ちだよ」
麗ちゃんの言葉に、みるみるうちに緩む涙腺。
こんなにあったかい雰囲気を感じるのも、久しぶりで。
「緑川が言うなら、ホントなんだろうな。フェイク写真」
「だって緑川さん、嘘つくの下手だし」
「じゃあさ、皆で署名集めようぜ!先生の処分撤回しろってさ!」
「皆……」
ふいに双葉と目が合う。
彼女も涙を浮かべながら、嬉しそうに微笑んでくれた。
「先生戻って来たら、焼き肉奢ってもらおう!クラス全員分!」
「それいいね!卒業式の後打ち上げだー!」
笑い合う皆に、「ありがとう」と頭を下げることしかできない。
本当に、こんなに良いクラスはない。
きっとそれだって、……先生のクラスだったからだ。
先生がこの光景を見たらどんなに喜ぶだろうと、私は密かに胸を熱くさせていた。
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