鳴り伝う音は青春の光

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 次の日の朝。 「っしゃー!出陣じゃー!」  村田くんのかけ声で、3-1クラス全員が教室から出て校長室まで練り歩く。  その光景が異様すぎたのか、他のクラスの生徒達も「なんだ」「なんだ」と騒ぎ始めた。 「あなた達!何をしているの!すぐに教室に戻りなさい!」  そんな学年主任の先生の言葉にも、申し訳ないけど従えず、私達は校長室の扉をノックした。  中にいた校長は面食らったように驚いて、目を見開きながら私達を見上げている。  さすがにクラス全員は狭い室内に入りきらないので、二手に別れて、片方のチームは扉の外で他の先生の介入を止め、時間稼ぎをする戦法。  双葉、麗ちゃん達に見守られながら、私は勇気を出して校長先生の前に出て、書類の山を机の上に置いた。 「なんだね……君達は」  すうっと一つ深く息を吸い込んでから、勢いよく声を出す。 「……香住先生の懲戒処分の撤回を希望します!!」  鳩が豆鉄砲をくらったかのような校長の目。  その頃には、教頭先生と学年主任も室内に現れ、怒り狂って私達を叱咤した。 「いい加減にしなさい!君達はもう卒業だろう!こんなくだらないことをしてなんになるんだ!」 「……くだらないこと?」  その時、ついに私の堪忍袋の緒はプツリと音を立てて千切れた。  そしてそれは、皆も同じだったようだ。 「……ふざけんな!何がくだらないことだ!」 「私達にとって、雷斗先生は大切な存在なの!」 「話くらい聞いてよ!」  総勢25名の生徒が一気に怒りを爆発させ、さすがの校長達もたじろいでいる様子だった。  言いたいことのほとんどを皆が言ってくれたので、逆に私は冷静になり、伝えたいことをもう一度整理することができた。  再びゆっくりと深呼吸をして、校長を見据える。 「香住先生は、不貞な行為をしていません。キスをしていた写真はフェイクです。証拠だってあります」  そう言って、昨日モモ先生と櫻井くんが印刷してくれた検証の写真を見せつけた。 「パソコンで、実際に解析しているところを確認することもできます。嘘ではありません」 「なんでこの写真を持っているんだ……どうして流出した?」  校長の言葉に、教頭先生は気まずそうに目を泳がせている。 「先生の懲戒処分の撤回を希望する署名も集めました!ざっと数えても、二百人以上です」  麗ちゃんが毅然として署名を校長達に差し出した。 「信じて下さい!先生は、皆を裏切るようなことはしません。……悪いのは私です。私が先生への気持ちを止められなくて、誤解を招くようなことをしてしまいました」  深々と頭を下げるも、学年主任の返事は冷淡なものだった。 「だけど、一枚目は本当なんでしょう?あなた達、抱き合っていたわよね?」 「それは……」  そこだけは嘘はつけない。言い訳もできない。 「それって立派な不貞行為じゃないですか?」  主任の厳しい視線に怯む。  ……あのハグは、決していやらしいものではなかった。  そう言いたい気持ちをぐっと堪える。  だって実際に、その日以外も抱き締め合ったことはあるから。  不甲斐ないけれど、何も言い返すことができなかった。
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