鳴り伝う音は青春の光

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「……今更何言ってんの?俺達、ハグ喫茶で散々先生とハグしたじゃん」  村田くんの一言に、主任は固まった。  私ですら驚いていると、つられるようにして他の皆も騒ぎ始める。 「そうだよ!私もハグした!」 「俺も!」 「お前もかよ!」 「私なんて、合宿でもできました!」 「ハグなんて挨拶の一部じゃん」 「それで懲戒処分なら、もうとっくになってたでしょ」  ひっきりなしに響く皆のフォローに、もう涙を我慢することができなくて。  何度も袖で拭いながら、心の中で叫ぶように感謝した。 「静かにしなさい!」  狼狽えるように怒鳴る教頭先生と、ただ傍観している校長、苦虫を噛み潰したような表情の主任。 「とにかく、これは私達だけで判断できることじゃないのよ!……そもそも、香住先生自身が認めているんです!教師として相応しくない感情を、あなたに対して持っていたと!」 「……好きになるだけで懲戒処分なら、私達ほとんどが犯罪者ですね」  聞き覚えがありすぎる声が聞こえて、私は瞬時に身震いした。  振り向くのが怖い。背中にとてつもない圧を感じる。  恐ろしくて、敵わなくて、でも絶対的に信頼している…… 「……お母さん!?」  恐る恐る振り向いた私に悪戯な笑みを浮かべている母。  なんでここにいるの、と聞く暇もなく、母は校長に近づいていった。  相当な至近距離で、睨みをきかせる母。  その迫力に、最早止められる人は誰もいなかった。  ……ちょっと待って。これ……母、校長を殴るんじゃ?  一抹の不安に襲われ、慌てて母の肩を掴む。  しかし次の瞬間、母は突然その場に跪き、先生達に向かって頭を下げた。 「……私からも、香住先生の処分の撤回をお願いします」 「お母さん!?」 「ちょっと、やめて下さい!緑川さん!」  母は頭を上げずに続けた。 「申し訳ありません。全てはうちの娘の責任です」  母の言葉に、胸が痛くて痛くて仕方なかった。  お母さんごめん。そんなふうに頭を下げさせて。  恥をかかせるような情けない娘で、ごめん。 「全部、春衣の責任です。……この、打算も損得も一切度外視で、ただ真っ直ぐに人を愛し抜いた、誇らしい娘の責任です」 「お母さん……」  顔を上げた母は、私に優しく微笑んでいる。  ますます涙が出てしまう私に一喝した。 「ほら!あんたも!土下座!」 「はい!」  二人揃って頭を下げる私達に、皆困り果てているようだった。  私自身も、こんな奇妙な親子滅多にいないんじゃないかと思った。  こんなに恵まれている娘もいないとも。  心から、母が母でよかったと噛みしめる。 「なんなんですかあなた達!頼むからもうっ」 ____「……それ、やったの私です」  主任の声に重なるようにポツリと響いた声に、驚いて顔を上げる。 「フェイク画像、私が作りました」  憔悴しきったような顔の風間先生が、私を見下ろしている。
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