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「……風間先生、何を言って……」
驚いてポカンとしている校長達にもかまわずに、風間先生は言った。
「ちょっと悪戯したくなっちゃって。私が作りました。それに一枚目の写真も、私がふざけて二人に言ったんです。思い出にハグしてみてって。私が撮りました」
「風間先生……!?」
どうして突然風間先生がそんなことを言うのか、全くわからなかった。
皆も困惑している様子で、室内は静まり返る。
「……本当なんですか?風間先生」
主任の問いかけに、弱々しくゆっくりと頷く風間先生。
「申し訳ありません。どのような処罰も受けるつもりです。短い間でしたが、お世話になりました」
そう頭を下げると、風間先生はすぐに校長室を出て行ってしまった。
「……なんで」
「っしゃー!!これで先生の潔白証明できたじゃん!」
「ライライ、戻ってこれるよね!?」
途端に歓喜の声で騒がしくなる中、私はいてもたってもいられなくなって、すぐに立ち上がり風間先生を追いかけた。
「……風間先生!!」
廊下を歩いていく風間先生に慌てて駆け寄る。
振り向いた彼女は、悲しそうな瞳で笑っていた。
その顔が、本当の彼女の姿の様な気がして、やっと先生を知った気がして、胸の痛みと共に微かな安堵を感じた。
「どうしてあんなことを言ったんですか?」
震える声で問う。
先生は、力が抜けたようにして息を吐いた。
「……なんだか虚しくなったからよ。私の時は、あんなふうに助けてもらえなかったなって」
「風間先生……」
「結局さ、どんなに先生ぶったって、最後は本当の自分がどんな人間かってことにかかってくるのよね」
風間先生の悲しげな顔を見るのが耐えられなくなって、私は気づいたら先生の手を引き、走り出していた。
「ちょ……何!?」
「ちょっと話しましょう!先生!腹割って話しましょう!」
強引に風間先生を連れてきたのは、あの花壇の前のベンチ。
そこに二人並んで座って、缶コーヒーを飲んだ。
目の前の花壇は今、一つも花が咲いていない。これからまた、新しい花を植え直すのだ。
そのことが、妙に寂しく、だけど不思議と救われるような気持ちになってくる。
『先生と花を植えよう!』
そう言って笑ってくれた雷斗先生は、私にとって救いだった。
そして、そんな先生の高校時代、彼の救いとなってくれたのは、きっと風間先生だったんじゃないかと思う。
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