鳴り伝う音は青春の光

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「……高校の教師やってた時にさ、雷斗くんに告白されて。びっくりした。まさかこんな私のことを、好きになってもらえるなんて思わなかったから。……正直言って、彼にそんな感情はなかったけど、ほら、雷斗くんって格好いいじゃない?当時も女の子からすごい人気で。そんな彼が好きになってくれた自分は、価値のある人間なんじゃないかって嬉しくて。だから交際を始めたの」  絞り出すように、苦しそうに声を出す風間先生は、あのクリスマスの日、懺悔のように語っていた彼に似ている気がした。 「だけどさ、いざ付き合い始めたら、すぐに彼の気持ちが離れていったことに気づいた。きっと彼は、“先生”の私に恋をしていただけで、本当の、女の私には興味なかったんだわ。それがすごく悲しくて、余計に彼に溺れていった。終わらせたくなかった。……だけど」  先生は綺麗な瞳を揺らして、何もない花壇の土を見下ろした。 「皆にばれて、免職になった時、私はほっとしていたの。これでちゃんと雷斗くんと付き合えると思っていたから。だけど彼には、そんな気持ちがなかった。私悔しくて、二度と私のことを忘れないように、わざと酷いことを言ったの。“許さない”って。そうしたらずっと、あの子は私のことを忘れないから」  切なすぎる理由に、胸が詰まって何も言うことができなかった。  先生の気持ちが、痛いほどよくわかったから。  やっぱり恋は狂気だ。  人を好きになることって、自分が思っていたよりも、ずっと醜くて、虚しくて、ひび割れるように痛い。 「だけど忘れられなかったのは私の方。結婚してもうまくいかなかったし、あなたに嫉妬して、こんなバカなこと。……本当にごめんなさい。やっぱり私は教師に向いてないみたいだわ。人として、あまりにも低俗で」 「そんなことないです!!」  絶叫に近い私の叫びに、風間先生はびくっと肩を弾ませて驚いていた。  視界が滲んで先生の表情がよくわからないから、逆に言いたいことを言えるような気がして、私は何故か胸を張って答えた。 「風間先生は良い先生です!最初に出会った時、心からそう思ったから!それが本当の先生じゃないとか言われても、私がそう思ったならもう、真実なんです!」 「緑川さん……?」 「きっと先生か恋した風間先生も、嘘じゃない。だからこそ、先生、教師になったんだと思います!あなたのようになりたかったから!風間先生は、雷斗先生の、……聖人君子の原点です!」 「聖人君子?」 「風間先生のおかげで、雷斗先生は皆から愛される先生になって……私達に、たくさんのかけがえない青春を教えてくれた。風間先生がいなかったら私、こんな一年、送れなかった。だから……ずっと先生でいてください!私達の……雷斗先生の……先生でいてください」  泣きながら思い切り頭を下げると、風間先生は、そっと優しく撫でてくれた。  その手はとても温かくて、雷斗先生と同じだ。  辛いことも、嬉しいことも、汚いことも、綺麗なことも知っている、教職者の大きな手だ。 「……ありがとう、緑川さん」  涙をいっぱいにためて笑う先生は、初めて見た時と同じ、とても美しい人だった。 「これ、ずっと返さなくてごめんね」  私の手のひらにのせてくれた、煌めくシルバーリング。  その輝きに目が眩んで、ぎゅっと瞑った。 「……もうわかりきってると思うけど、雷斗くんとは何もなかったよ。『写真ばらされたくなかったら、私と付き合わない?』って脅したけど、雷斗くんは頑なに拒んだ。……最後まで、あなたとの恋を守ったのね」  風間先生はにっこりと微笑むと、ベンチから立ち上がり、一度頭を下げて去っていった。  彼女の後ろ姿を見つめながら、ぎゅっとリングを握る。 「先生……」  守ってくれて、ありがとう。  あの全てを包みこんでくれるような笑顔が恋しくて、リングにそっと口づけた。  
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