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____卒業式当日。
晴れ渡る空の下。私達は無事にこの日を迎えられたことを喜び、共に過ごしてきた時間に思いを馳せ、訪れる別れに切なさを感じながら何度も抱擁を交わした。
そんな私達のことを、最後まで温かく見守ってくれたのは、今日の一番の主役だ。
「めちゃくちゃ良い卒業式だったねー」
「もう、泣きすぎて頭痛い!」
「雷斗先生、スーツ姿エグい。萌え死ぬ」
「マジやっぱカッコよすぎた。我が校の宝や」
ざわめく教室内で、私は静かに待ち続けていた。
こうやって毎朝、心を踊らせながら彼が現れるのを待ちわびていたことを思い出しながら。
それは本当に、何もかもが一切合切光輝くような、この先どんなに願っても手に入らない、かけがえない時間だったように思う。
いつかこの瞬間を思い出し、私は涙を流すだろう。
戻りたい、と嘆くのか、あの頃があったから、と踏ん張れるのか、どちらになるのかはわからない。
だけどどちらにしても、この日々のおかげでこれからも真っ直ぐに生きられることは確かな気がする。
____「皆、卒業おめでとう!」
颯爽と現れた彼の姿が、いつもと全く変わらなさすぎて、それだけで涙が止まらなかった。
揺れるような大歓声の中、先生は申し訳なさそうに、少しだけ気まずそうにして笑った。
「皆、迷惑かけて本当に申し訳ない!」
「ホントだよライちゃん!」
「皆すっごく心配したんだからぁ」
「今日このあと打ち上げ焼き肉だから!先生の奢りね」
こんなしっちゃかめっちゃかなやり取りも懐かしすぎて、愛しくて。
もう滅多には見れないと思うと、ますます寂しさが募った。
「だけどさー、これだけは言わせて!……あなた達、別れんなよ!」
「え!?」
「え!?」
村田くんの言葉に、先生と私は同時に間抜けな声を出した。
「そうだよ!ウチらどれだけ尽力したと思ってる?」
「これですぐ別れたら、あたしらマジで報われんじゃん!」
皆に向かって、私達は「どうもすいません」と頭を下げる。
皆のおかげで、雷斗先生の免職は無事に免れた。だけどそれには、もう一つ理由があって。
「センセ、ホントに東高やめちゃうの?」
自主退職という名目のおかげで、処分が撤回されたことも事実だった。
先生は寂しげに、だけど清々しい笑顔で頷く。
「ああ。先生は春から、小学校の教員になる!」
「ええー!!」とまた歓声が上がった。
私もその話を聞いた時は、本当に驚いた。
先生が語ってくれた、新しい夢。それは__
『俺、もっと小さな子供達にも読書の楽しさを知ってもらいたいんだ。少しでも、本の素晴らしさを伝えることができたら嬉しい。いつか緑川が大作を書いたとき、多くの人達に読んでもらえるように』
先生と交わした新たな約束を胸に、私もこれから突き進む。
今度は二人の夢を、守ってみせるから。
「ねえライライ、最後に出欠とってよ!」
楠原さんの素晴らしい提案に、拍手が巻き起こった。
「そうだな!」
眩しいくらいの笑顔だけど、目には涙が浮かんでいる先生。
この青春の、最後の一ページ。
「相崎!」
「はーい!」
「石川!」
「ういっす!」
素晴らしい仲間と出会って。
「楠原!」
「はい!」
家族の有り難みも知って。
「佐々木!」
「ハイハイ!」
苦しいくらいに恋をして。
「松田!」
「ほーい!」
関わる人達全てが大切に思えた。
「緑川!」
今日と言う日が決して当たり前じゃないことを、教えてくれて。
「……はい!」
____ありがとう、先生。
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