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先生の新居へお邪魔するのは今日が初めてだ。
どんなお家なんだろう、というワクワクと、内心張り裂けそうなくらいのドキドキで、正直言って普通に歩くことで精一杯。
「荷物持つよ」
そう言って彼が手を伸ばした時に見えた赤いリストバンド。
余計に胸が締め付けられて、今にも倒れてしまいそうだ。
「何作ってくれるの?」
「カレーとポテトサラダです」
「おー!やった!大好物!」
屈託ない笑顔で笑う先生が、こうして一緒にいられることが、ただただ愛しくて。
私はありとあらゆる神、生物、森羅万象に感謝と忠誠を誓った。
先生が案内してくれた綺麗なマンション。
あの蔦が這っていた古ぼけたアパートとはだいぶかけ離れていて、そのギャップにプッと噴き出した。
「だいぶレベルアップしただろ?……緑川が、遊びに来やすいと思って」
…………そんな……
「いいんですか!?またちょくちょく遊びに来ても!?」
突然興奮する私を、先生は笑った。
「当たり前だろ?今日、合鍵渡すから」
「合鍵……」
邪神さまー!
0,1秒の間に、考えられる範囲の限界まで下世話な妄想を繰り広げ、その場に倒れこみそうになる。
そんな……先生の家の合鍵が貰えるなんて。こんな幸せいいのかな?私今日死ぬのかな?
エレベーターで三階まで上がり、302号室に辿り着くと、先生は軽快にドアを開いた。
「うわー!すごい!綺麗!」
「まだ物が何もないからな」
先生が言うように、部屋の中は本当にシンプルで、机や冷蔵庫は前のものと変わっていない。
ひとつだけ変わっていたのは。
1LDKの間取りの、奥の部屋に置いてある大きなベッドが目に入り、ゴクリと固唾を飲み込んだ。
邪神様、嘘ですよね?まだそんなラッキーチャンスは早いですよね?
「い、今すぐカレー作りますね!」
邪念を吹き飛ばすようにキッチンへ向かう私を、突然先生は背後から抱き締めた。
「先生!?」
びっくりして心臓が止まりそうになる私の耳元で、先生はため息をつく。
「あー……やっと。やっと堂々と触れられる……」
その声は甘くしっとりとしていて、全身がぶるっと震えた。
振り向いて見上げる私に、先生は顔を赤らめながら微笑む。
「……好きだよ。春衣ちゃん」
もう、溶けてしまう。冗談抜きに。
「わ、私も……大好きです……!」
痛いくらいに力強い抱擁を交わして、ゆっくり顔を近づけて。
ついについに、先生とキスをした。
……脳みそが痺れて、身体に何も指令を出せなくなる。
柔らかく熱い先生の唇に翻弄され、全身の力が抜けるくらいの快楽に身悶えた。
そっと唇が離れると、これでもかと思うくらい荒く呼吸する。
この呼吸困難で死ねたらどんなに幸せだろうかと、死因が先生とのキスだったらいいのにと、そんな馬鹿げたことを考えているうちに、また先生の唇が触れた。
今度は私の唇を割って、口内に熱い舌の感触が襲った。
息ができない。先生の舌の動き一つ一つに身体が反応して、鼻から変な声が漏れてしまう。
「……春衣」
先生の切ない声が耳元をくすぐる。
色っぽい吐息が身体の芯を熱くさせて。
「せんせ……」
「もう、先生じゃないよ」
クスッと笑う先生。
私の腰の辺りを、意味ありげにゆっくりと撫でて言った。
「……でも、いいか。まだ教えられることはたくさんありそうだし」
「え?」
悪戯に笑う先生の瞳を見て、私は根本的なことを思い出していた。
____そうだ。先生、ドスケベだったんだ。
「大丈夫だよ。今日いきなり最後まではしないから。これから時間をかけて、じっくり丁寧に、一つ一つ順を追って説明していくから」
久方ぶりの邪神様の降臨に、まだ頭が追いつかない。
「これから楽しみだね、春衣ちゃん」
先生と邪神様のおかげで、まだまだ私の青春は続いていきそうです。
今度のは、少し刺激が強そうだけど。
「あわわわわわわわわわ」
【おしまい】
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