新見奏太

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 すっげーと叫びたいのを、雑音が入ってはいけないので、奏太はすんでのところで我慢した。研二が一回りしてからしばらく経つと、アンディーの顔の皮膚がうごめいて、頬があがり、目の形が変わり、どんどんと研二の顔が形作られていく。前髪まで伸びて横に流れるマッシュヘアーになる。奏太は息をするのも忘れて、その様子に魅入った。 「奏太。どう思う?僕は普段自分の顔をあんまり見ないから比べようがない。客観的に見てどんなもんだ?」 「そっくり!瓜二つだよ。これはすごい!他のアンドロイドは、被写体の日常をビデオカメラで撮影したものから、被写体の顔を形成するんだろ?要人の影武者なんかに使用できそうだな」 「まぁ、行く行くは他の用途を見い出すとして、まずはこのアンディーのバグの原因を調べなくっちゃならない。他のアンドロイドに同じバグが起こらないとも限らないからな」 「外部入力する際に使った元のデーターと、アンディーに入力後、誤変換されたデーターの数値を比べれば、おおよその見当はつくけれど、兄さんたちみたいなエリートが調べたんだから、俺の出る幕は無いな」 「いや、ロボット工学でお前はずば抜けた評価をもらっている。既成概念で検討する僕たちとは違う観点からエラーを発見できるかもしれない。一度調べてみてくれ」  研二がモニターとアンディーの接続を外そうとしたときに、スマホが振動した。 「電話だ。ちょっと待っていてくれ」  兄が隣の控室へと移るのを見送ってから、奏太はアンディーに向き直った。 「アンディー。俺の顔も複写できるか?」  兄の顔をこれだけ見事に再現するのを目の当たりにしては、旺盛な好奇心が黙ってはいない。研究以外に興味を持たない研二が、自分の顔に無頓着なように、奏太もさして自分の風貌に興味があるわけではない。でも今は、客観的に自分がどんな顔をしているのか見てみたくなった。  繊細に整った兄の知性的な顔とは違い、奏太は彫が深くて野性味が強い男らしい風貌だと言われる。インテリ顔からどんな風に皮膚が動いて変化するのかを、つぶさに見られると思うとワクワクする。  はやる心のまま、奏太は使用上の注意を読むことも無くコマンドを出した。  アンディーの内蔵カメラを使って直接データーを読み取らせる場合、アンディー自身のハードにデーターが書き込まれるため、前のものを完全に消去をしてからでないと、次のコマンドを出してはいけないことを奏太は知らずにいた。  そして、原因不明の不具合を抱えるアンディーの視線が動いたとき、奏太は過ちを犯したことを知った。それもとんでもないことが起きた後で。
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