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「ま、待ってくれ!消さないでくれ!俺だよ、兄さん。奏太だよ。俺、アンディーの中に入っちゃったみたいだ」
紛れもない研二の声で、とんでもないことを言うアンディーを研二が睨みつけた。
「消去を恐れて言い逃れをするのか?いや……まだ何も学んでいないアンディーがそれをするのは不可能だな」
アンディーの頭の先からつま先まで何度も視線を走らせた研二が、まだ疑いの色を滲ませた声で奏太に問う。
「それで?一体何をしたんだ?」
「俺の顔も、写し取ってもらおうと思ったんだ。コマンドを出した途端、吸い寄せられるような感覚があって、気が付いたらアンディーの中にいた」
「そんなバカなこと……いや、お前なら好奇心から説明書も読まずにやりそうだ。あのな、ダイレクトに読み取らせた後で、コマンドを出す場合は、前のデーターを消去してから行わないと不具合が起きるんだ。でも、以前試したときには、こんなことは起きなかったぞ。本当に奏太か証明してくれ」
う~んと唸った奏太は腕を組んで考えた。
こっちをみていた研二が、自分とそっくりな顔を凝視するのに耐えられなくなったのか、スッと視線を逸らしてコンピューターから離れ、奏太の横に戻る。こんこんと眠り続ける奏太の額の髪を優しくかきあげながら、押し殺した声で言った。
「もし、本当にお前が奏太なら、僕とお前だけしか知らないことを話せるはずだ」
床で伸びている奏太の横に跪く研二は、まるで祈りを捧げているようだ。
ゆっくりと顔をあげた研二が苦悩の表情を浮かべ、頼む無事を確かめさせてくれと切望する。自分がしでかした失敗で兄を苦しめているのを知り、奏太は今更ながら軽率な行動を悔いた。
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