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何とか兄の気持ちを軽くしてやりたい。自分は大丈夫だと安心させたい。
奏太は必死で思い出そうとするが、一回りも違う兄と外で思いっきり遊んだことは無かったように思う。おぼろげに思い出すのは、水族館にでも連れて行ってもらったのか、水槽に大きなクラゲが浮かんでいたような……
ただ、あまりにも幼少時代のことで、それが現実なのか夢なのかは定かでない。優秀な研二はいつも勉強をしていたような気がする。
二人だけの秘密といえば……ふと、頭にある光景がよみがえった。
「えっと、俺が五歳か六歳のころ、兄さんの部屋に入ったら、慌ててパソコンの画面を隠したけれど、とってもきれいなお姉さんがなぜだか服を着ないで映ってたってのはどう?」
「お、お前、そ、そんなことをよく覚えていたな。あれは…その…思春期の勉強を……いや、他にも話してくれ」
高校生時代の秘密を暴かれて、慌てふためく研二を前に、同じ顔のアンディーがにやにやと笑っている。傍からみるとシュールだが、本人たちの内面はいたって真剣だった。
「じゃあ、俺が初めて彼女を家に連れてきたときのことはどうだ?ちょうど兄さんが忘れ物をとりに大学から戻ってきて、俺の彼女が兄さんのことカッコいいって言ったんだ。そしたら、ご親切にもケーキを差し入れしてくれたよな?覚えてる?」
目を伏せてその時のことを思い出しているのか、研二の口元に笑みが浮かんだ。
「普段は俺の男友達が来ても、おやつなんかだしてくれたことないのに、兄さんも男だなって可笑しかったよ。でも俺の彼女なのに、兄さんを褒めたことが悔しくて、ろくにお礼も言わなかった気がする」
「お礼を言うどころか、彼女はダイエット中なんだから、こんなものを差し入れないでくれと文句を言われたぞ」
懐かしい思い出に、お互いの顔が緩む。研二が分かったというように頷いた。
「良かった。お前が無事でいてくれて。でも、どうしてこんなことが起きたんだ?原因を突き止めないとお前を元に戻せない」
「兄さん、俺の仮説を聞いてくれる?」
「ああ、何だ?言ってみろ」
奏太はアンディーの創作を手伝ったわけではないので、あくまでも勘だと前置きをして語り出した。
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