ハプニング

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 研二はそんなことがあり得るだろうかと首を傾げたが、考えても他に例がないケースなので答えを見つけられず、難しい顔のまま先を促した。 「アンディーは人に危害を加えることは禁止されているから、電気エネルギーに変わった俺を跳ね返すことはできなかった。どうしてかっていうと、拒否すれば放り出された魂は、空中で放電して霧散してしまう。そして形骸化した俺の身体が死に至るからだ。本来ならアンディーは被写体の容姿と性格を同時にインプットするのに、性格の方はまだだった。人間を殺せないアンディーは、前のデーターを一旦削除する必要がある顔の部分はそのままに、未入力の性格スペースに俺を取り込んだっていうのが俺の推測」 「なるほどな……うん、面白い考えだ。だとしたら、元々最初に複写された俺がコマンドを出せば、お前は元に戻れるかもしれない」 「えっ?それは思いつかなかった」  奏太が驚いている間に、研二がアンディーに向かって、奏太の魂を元の身体に戻せとコマンドを出した。エレベーターが急激に下がるような気圧の変化を感じた奏太が、吐き気を感じて目を閉じた途端、ふぅっと吸い込まれるように空間を移動した。  普段は意識もしないドクドクとした心臓の音に目をあければ、奏太は自分の身体にもどっていた。 「すっげ~~~~~!世紀の大発明じゃん!」  床から飛び起きた奏太が叫ぶと、兄が苦笑しながらも、ふぅーと安堵のため息をついた。 「どうなることかと心配したのに、お前は本当に能天気だな。下手をしたらアンディーの中から出られなくなっていたかもしれないんだぞ」 「俺が研究者の卵じゃなかったら、ただ単に怯えただろうな。でも、世界をあっと驚かせるようなことを発見したんだ。これが喜ばずにいられるかっていうんだ。もう一度、アンディーの中にいけるか試してみようよ」
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