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莉緒が兄の研二に好意をもっていることは、兄から聞いて知っていたはずだった。
実際の莉緒を前にして、彼女が兄を異性として思っているだけではなく、その眼差しには同じ研究者や技術者としての憧れや尊敬が混じっていて、まだ何も成し遂げてはいない未熟な男がアタックしても、容易に翻ることはないだろうと分かってしまったからだ。
ついつい対抗意識を燃やして、ケンディーの中で兄として振舞うよりも自分らしさを出しまい、研二にあまりしゃべるなと諫められた。
その途端、何だよ、莉緒ちゃんを自分の彼女にする気もないくせにと反抗心が起きる。
「新見さんは、二重人格みたいね」
莉緒の言葉にしまったと思ったけれど、面白がっているのが分かって、ひょっとしてひょっとすると、奏太として会ったときにイケるかもと期待を持った。
一回りも歳が違う兄は、奏太が真似ようと思ってもとうてい無理だと感じるほど、男としての落ち着きと知性を漂わせている。
同じ親から生まれたのに、奏太はスポーツマンタイプの野生味を帯びた顔をしているためか、当然好意を寄せられる女性のタイプが違う。自分に寄ってくるのは外見が派手で、いわゆるパーティーピーポーと呼ばれる今を楽しむことに精力的な女性が多い。
最初こそ誘われるままに付き合いはしたけれど、流行の中に身を躍らせるばかりで芯を持たない彼女たちに、奏太は次第についていけなくなった。
構ってくれないと悟った途端に女性たちは、研究に没頭する奏太を地味でつまらない男だと悪く言って去っていった。
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