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about two years ago
ことのきっかけは、二年ほど前にさかのぼる。
早春にしては朝から温かく、小鳥たちの楽し気なさえずりが、開け放たれた古い洋館のダイニングを満たしている。朝食を終えた新見研二の話を聞き、驚いた弟の奏太が大声をあげた途端、小鳥たちが一斉に飛び立った。
「はぁ?お見合いロボット?兄貴が作るのか?」
「ああ。大学は止めて、ヒューマノイド・テクノロジー・ラボに移る」
「ええ~っ‼俺、兄さんの講義を受けるのを楽しみにして受験勉強頑張ったんだぜ。入れ違いって酷くないか?」
第一志望の大学に合格し、これで兄の研二が教える知能機械学を専攻できると思った矢先にとんでもない爆弾を落とされ、新見奏太は唖然とした。
彫が深いために大人びて見える顔をしかめ、奏太は用意したトーストの皿を持って、キッチンから繋がるダイニングに大股で歩いていく。
先に食べ終わっいていた研二は、一回り年下の弟の怒りをものともせず、テーブルに載った食後のコーヒーに手を伸ばした。
「悪かったな。相談もせずに決めて。環境が整ったのと、満足できる研究成果が出たこともあって決心したんだ。でも、お前が僕の講義に期待していたのを知っていたから、話し辛かったんだよ」
大学でも講義以外は研究室に閉じこもりきりのくせに、美形の兄が女生徒からもてるのは、バレンタインデーや誕生日のプレゼントの多さで知っている。ところが、本人の口どころか兄の友人たちからも、兄についての色のついた噂話を一切聞いたことがない。
そんな兄が、よりにもよって、見合を代行するロボットを作るために大学教授を辞めるなんてありえない。あるはずがないと、奏太の頭の中ではまだ半信半疑だ。
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