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それはな……と研二が身を乗り出して説明し始めた。
「家柄同志の結婚や大会社の社長が相手を決める場合には、大きな利害が絡むだろ。本人たちがいくら跡取りさえ生まれればいいと割り切って結婚したとしても、性格の不一致や、不義、借金などが原因で離婚問題に発展してしまうと、慰謝料などの金銭の問題だけでは済まされない場合がある。漏れた醜聞が原因で、企業のイメージがダウンして実利に響くことがあるからな」
「そっか。先の面倒を避けられれば…ということか」
「ああ。家柄や財産などを含めて、少しでも相性のよさそうな相手を見つけて結婚することができるなら、彼らは見合いロボットに価値を見い出すはずだ。開発に成功して実績を積めば、十分ビジネスとして成り立つだろう」
「でも、たった一週間分のデーターで一人の人間を再現できるのか」
「もちろん完璧には無理だな。でも、実際のお見合いの場合もお互いに良い顔だけを見せるだろ。それよりは相手の分析結果を入れたアンドロイドの方が、ずっと素に近い相手を見られるよ。コピーする人間がふと気を抜いた瞬間や、使用人に対する接し方で性格分析をして、アンドロイドはその人物のおおよその行動パターンを作り上げることができるからね」
それと、これは一番の利点だがと言いながら、研二が少し声を落とした。
「直接見合い相手と会うことはないから、もし断られたとしても、残念以上の気持ちを持たずに済むと思わないか?ビジネスでも付き合いがある場合、遺恨を残さないのが一番だからな」
「それは兄さんの考えじゃないな。きっと吹き込んだのは、親友の羽柴さんだろ?今やIT企業で成功したヤンエグとして、経済紙に載るほどのやり手の社長さんだもんな。まぁ、金持ちのお客様は、羽柴さんから紹介してもらえそうだから、その点は心配なさそうだよね」
「ああ。羽柴は色々なベンチャー企業に出資しているんだが、今回の開発も羽柴がスポンサーを快く引き受けてくれた。研究所もスタッフもずいぶん前に確保できていて、僕があちらに移ればすぐに始動する予定だ。それと、羽柴の妹の莉緒ちゃんが、大学に入ってくるから、会ったら面倒みてやってくれ」
「莉緒ちゃんって、兄さんにめちゃボレしてる子だよな。ちょっと夢見がちな子で、確か俺より二つ年下じゃなかったっけ?」
「飛び級したらしい」
「うわぁ~~っ。才女かよ。会えればいいけど、学部が違うと全く知らずに卒業するって先輩から聞いてるから、約束はできないよ。で?完成予定は?」
「二年後だ。もう十年ほど研究しているから、資金の目処が立った今、材料を調達して組み上げるだけになっている。現時点で考えられる素材より適したものが発見できればそちらを使いたいから、二年の調整期間を持たせてある」
さすがだねと大いに感心して見せながら、奏太はその研究に関われそうな分野を専攻しようと心に決め、研二にあれこれ質問をしたのだった。
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