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やった~!と喜んだのも束の間、新見教授は兄と一緒に事業を立ち上げるために大学を辞めてしまい、莉緒の努力は報われなかった。
その時はショックだったけれど、そんなことで諦めるくらいなら、とっくの昔に他の男の子とくっついていただろう。ただし、大抵の男子は莉緒の研究熱心さに恐れをなすか、嫌味を言って遠巻きにするのだが。
十四歳という歳の開きだけでなく、親友の妹を自分の妹でもあるように扱う新見が、莉緒を一人の女性として見たことはない。多分これからだってそうだろう。分かっているから、莉緒は決心したのだ。
兄たちの作るアンドロイドの開発に、役立てるよう頑張ろうと。
そして、この二年の間莉緒は合成生物学を専攻して、見事にアンディーの皮膚組織に貢献することができた。
つまり生物がどんなものでできているかを研究して、人工の生物を作っちゃおうという分野を活かせたというわけだ。
今日は莉緒が開発した人工皮膚を装着したアンディ―と会える。
もう一つ嬉しいのは、莉緒を相手に、アンディーが本番さながらのお見合い実験をすることが決まったからだ。
新見の研究開発に役立てたばかりか、アンディーの動作の最終確認をする大事な役目を与えられるなんて思ってもみず、最初兄から話を聞いた時には跳び上がって喜んでしまった。
アンディーが完成すれば、新見と接点がなくなると思っていただけに、話せる機会が増えるのは頑張って来たことへのご褒美がもらえたように感じたからだ。
靴音を響かせながら、奥の研究室へと続く廊下を走る莉緒が、一瞬天井の防犯カメラに目を向ける。今頃いくつかのモニターが、猛スピードでシークレットエリアに侵入する人物をチェックしていることだろう。
ようやくお目当てのドアが見える。でもその横にはまた網膜認証装置がある。
「もう!入り口と防犯カメラでチェックしているんだから、サッと開けてくれたっていいのに」
文句を言いながら乱れた髪を手で梳く、色素の薄い大きな茶色の目と口角がキュっと上がった莉緒の顔は、小さなころからお人形さんみたいだと言われた。
友達の言葉を借りれば、「幸運なことに、十八歳の今も大きな変化をすることなく可愛らしさを保っているから、日焼け止めとリップクリームだけでもまだいける」らしい。
こういう急ぎのときに、鏡でチェックしなくて済むのはラッキーだ。
簡単な身づくろいをする間に、ピーッと電子音が鳴り、ドアがスライドした。
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