羽柴莉緒

4/5
前へ
/127ページ
次へ
「莉緒、無茶を言うんじゃない。新見は研究所に泊まりこみになることも多い。新見のデーターを取るために、研究所のあちこちにカメラをしかけるわけにはいかないし、人物をより正確に再現するためには、約一週間いる。機密を狙うライバル社から情報を引き出されないとも限らないから無理だ」 「だって、アンディーの制作はひと段落したのでしょ。今日からまとまったお休みを取るって、前に新見さんから聞いてるもの。お願いお兄ちゃん、新見さん。一週間分じゃなくてもいいの。いくらアンディーが他の二人を正確にコピーしたって、面識のない本人たちとどう違うのか、私にはさっぱり分からないわ。その点、新見さんなら小さなころから知ってるから、コピーが上手くいかなかった場合には、その箇所を指摘できもの」  いつもなら、莉緒の頼みとあればできる限り叶えようとする新見が、どうして躊躇するのか莉緒は何となくその理由を察していた。  アンディーの最終テストの相手に選ばれたことを、莉緒がはしゃぎながら兄に報告したときに、兄が見せた複雑な表情でこの実験がただの最終テストではないと分かってしまったのだ。  今回アンディーにインプットされた二名の男性は、兄の紹介だと聞く。  きっと兄の目に叶った有能な部下たちなのだろうけれど、いくらアンディーがその二人を(かたど)って、莉緒と見合いまがいのことをしたとしても、兄の思惑にはまるつもりはない。  莉緒が憧れの新見を模写するアンディーを希望したのは、兄への反抗心もある。それより大きな理由は、新見に彼女として見てもらえない憂さを、せめて一週間だけでもいいから、アンディ―を恋人代わりにすることで晴らしたいからだ。
/127ページ

最初のコメントを投稿しよう!

44人が本棚に入れています
本棚に追加