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5.ドリームドリップ平面化
夢を見た、懐かしい思い出の夢。
教室の中、二人きりで男と女。
一方は間茂で、もう一方は綺麗な人だった。
放課後の教室、人気の少ないそこで、綺麗な人は机の上に顔をうずくまらせていた。
「大丈夫、泣いてるの?」
心配した間茂に綺麗な人はこちらを見て、
「泣いてない.......雨が降ってるから、きっとそれだよ」
綺麗な人は無理に笑顔を作って、心配ないよと訴えかけているように見えた。
少し顔をずらして見える窓には、確かに雨が映っている。
「確かに降ってる.......何か勘違いしてごめん、でもそのままじゃ、ずぶ濡れになっちゃうよ、僕の傘よければ使う?」
右手に持っていた傘を間茂はこの場で広げて、綺麗な人に被さるように近づける。
「.......ありがとう──じゃなくて本気で言ってる? 窓、開いてないんだよ.......」
近づけられた傘に手をかけながらも綺麗な人は嫌悪な雰囲気を顔にさらけ出す、警戒心の現れに近いものだろう。
「えっ、うん、雨漏りでしょ? 分かるよ」
綺麗な人はくすくす笑いだす。
「何それ、キミおかしいよ」
イマイチ理解のできない返答に、間茂は小さな声で動揺を見せる。
「女って、怖いなぁ.......何言ってるのか分からん.......」
──キーンコーンカーンコーン。
眠りはチャイムに起こされる。
先程よりも浅い眠りだった証拠だろう。
目覚めて見えた周囲は、曖昧ながらも夢で見た教室に似ている。
そんな気持ちは代議員の声での号令が先程同様に聞こえると同時にかき消され。
起立と姿勢と礼、
「お願いします」
間違えることなく挨拶をして、着席。
夢のせいかは分からないが、本来の調子を取り戻してもう眠ることなく授業を受ける。
2限目、3限目、4限目。
昼食はボッチで食べて。
5限目。
始まってから数分後程で、厄介なことに睡魔が襲ってくる。
目を擦って、我慢して。
頬をつねって、我慢して。
色々試して目を覚まさせることに必死になる。
何故かは分からないが寝たくない、そんな気持ちに間茂はなっていた。
あと授業は何分で終わるのか不安に駆られ、掛け時計に目をやる。
──あと30分
長い、やたらと長い。
授業中のため、声には出ないが思う。
そして満足いくまで見終えて、目を掛け時計から離すながれ、その視界に既視感を覚える。
隣の席にいる、欺川 幸の姿。
それはうとうと揺れて、目を閉じている。
朝の妄想が想起される。
寝顔をじっと見て、妄想通りのことを言ってやろうか真剣に迷う。
本当にじっと見て迷っていると、寝顔がとても綺麗に見えた。
まるで夢の中でみた綺麗な人にそっくりな顔。
そんなことをおもむろに思っていると、
欺川はビクッと動いて目を覚まし、こちらを向く。
「寝顔見てたでしょ?」
動揺して何も言えない間茂。
「そういう人はエッチなんだよ.......?」
またもや、欺川 幸からの爆弾が投下され、
数秒後に赤面する間茂の姿と、少しばかり赤らめた顔の欺川の姿がそこにはあった。
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