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1.彼と彼女の関係線上
家から出た時、彼女はいつも颯爽と現れる、
楽しげな顔で走ってくる、恒例のことながら振り向きざまに正体を察する。
そして、この足音はまた来たなと思う。
欺川 幸という女が、
綺麗な黒髪ロングをなびかせ、青みがかったブレザーとねずみ色のスカートを揺らす、端正な顔立ちに二重のヘーゼル(薄い茶色)の瞳を持つ、美少女たる存在。
だがしかし、それは美少女の肩書きをもつ小悪魔、嘘つきの魔女、誰がどう思おうとも間茂 真にとってはそうである女。
だからこそ身構えて、行動を起こす。
「昨日のようにはならない.......」
目を合わせて話しかける。
「安心してよ、今日はエイプリルフールだよっ」
間茂の発言への、欺川からの返答、的外れなようで伝わる言葉。
それは間抜けな「えっ」を引き出す。間茂から動揺の現れを表した。
先程から無理に作っていたポーカーフェイスが崩されたのことも付け足すと、なお間抜けに見えることは置いておいて。
目の前には、過ぎ去っていく欺川の顔、笑顔。
会話はシンプルで一瞬のものながら、脳裏に焼き付く衝撃を起こす。
「エイプリルフールって、今日なの.......か.......。」
身体がざわめき身震いを起こす、歩を止める。
事実的に昨日の夜5時間を要した彼女打倒の心意気は、ほんの数秒で揺るがされた。
走り続ける欺川を見ながら、命の危険、学校に行ってはならない、そんな危険信号が頭の中を回る。
今日って、今日って.......。
「エイプリルフールなの.......?」
確認のため二度言う、まだギリギリ見える欺川から目をそらす、現実逃避に片足を突っ込み始める。
それでも、重要なことなので二度言いました的な冗談は、寂しく1人なので言わなかった。
欺川が去った後のため、独りになった頭は先程よりも冷静である。
それがこの場に今あることによって、
現実と向き合おうとする気持ちが自尊心やら何やらでまだ残っているのに、気づける。
「いや、待て待て、エイプリルフールって.......。」
記憶を振り返って幾多もの欺川の行動を思い出す。
「確か、数日前にも言ってた.......。」
落胆の声は間茂から溢れ、それはやっと気づけた事実を裏付けする。
日付けやら曜日はもちろん、月ごとの行事等々は無論、日常に普段から無頓着な間茂はここまで気づくのに普通の人の二回りほど遠回りする、気づくのが遅い、もちろん今回も同様にだ。
そして悲しいことに自覚が無い。
だからこそ、あの日、あの時、欺川に目をつけられてしまったのだろう。
本人の自覚は皆無、その日のことをきっかけだとは思っていない。
そんな間茂の口は先程の落胆をさらに暗めて、再び開く。
「今日も朝からしてやられたのか、悔しい.......」
止まった足は再び動きを帯び、欺川のいる学校へと向かう。
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