レオポルドのラブレター

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レオポルドは、街で一番の笑われ者だった。 その容姿は、小ぶりの短い大根に似ていた。 胴体は短く、ずんぐりとした体型。顔にはそばかす、クルクルとした赤毛。 レオポルドは昔から、街の人々に馬鹿にされてきた。 何をやらせてもパッとせず、グズで失敗ばかりのレオポルドは、街の女たちから見ても、とても不格好な男だった。 レオポルドは、アンヌにラブレターを送るため、レターセットを買いに街へ出た。レオポルドがほしかったのは、無地の味気ない便せんではない。 特別なものを探していた。 雑貨屋をいくつもわたり歩き、ようやく見つけたのは、便せんの右端にラベンダーの押し花が施されたものだった。 これは、アンヌが好きだと言っていた花だ。 レオポルドは、これ以上の便せんはないと即決した。 レジで勘定すると、店主であろう大きな男はレオポルドを一瞥した。そして、紙袋にレターセットを入れながら鼻で笑ったのを、レオポルドは見逃さなかった。 僕の容姿に、可憐な花は似合わないとでも言いたいのか。 だが、アンヌのためだ。構うものか。 レオポルドは自宅に戻ると、そそくさと階段を駆け上がり、自分の部屋で紙袋を破いた。紙袋には『プティ・マルシェ』と店名が印字されている。この店には二度と行くまい。 レオポルドは袋をゴミ箱に押し込んだ。窓際の小机に腰を下ろし、ラブレターを書き始める。 窓から見える夕空に、アンヌの顔を思い浮かべた。彼女はこの素敵なラベンダーの押し花を、喜んでくれるだろうか。 レオポルドは、文字があまりうまく書けるタイプではない。 文字が汚いと笑われてしまうのではないか。 そう心配した彼は、鉛筆で何度も下書きをした。指に少しタコができたが、大丈夫。 そして万年筆を握り、ゆっくり丁寧に文字をなぞった。 何時間もかけてラブレターは完成し、レオポルドは疲れていつの間にか眠りについてしまった。 便せんには、筆圧の強い線がいくつも残っていた。
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