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いち、に、さん、よん… 暗闇の中で、数を数える。 外から聞こえてくる音が鳴り止むまで。 今までの最大数は、23250。 時間に換算すると、約7時間。 僕はずっと、この暗闇の中にいた。 ドアの隙間から差し込むわずかな光の先に見えるのは、見苦しい姿をした母親。 感情の赴くままに振る舞う彼女の姿に、何度も鳥肌が立つ。 建て付けが悪いドアのせいで、その姿を完全に見えなくするほどドアをしっかりと閉じることはできなかった。 いや、たとえできたとしても、僕はあえてその隙間を残したのかもしれない。 あえてその醜態を晒している姿を目に焼き付けることで、少しでも湧き上がる希望を打ち消したかったのだ。 どんなに絶望的な状況に置かれていても、ほんの少しの光に縋りつこうとしてしまうのが人間の性質であると、僕はもう知っていた。 そんなことを学校で言っても、先生は僕を扱いにくい生徒として腫れ物に接するように態度を変えるだけで、真に分かり合える人なんていなかった。 成人した教師ですら、そんな態度なのだから、同級生たちに理解されるはずもなく、僕はずっと変わり者として見なされていた。 ドアの隙間から見える、その光景を誰かに話すこともなく、僕は育って行った。 変わり者として扱われるのは、ある意味で気楽だった。 加わりたくない社交の場に、無理やり参加させられることもない。 そもそも誘われすらしないのだから。
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