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買い出しをして店に行く。から揚げの下ごしらえをするとスーパーで買った菓子パンを食べた。
「理来くん、昨日の休み何してた?」
店長が訊いた。理来はなんて嘘をつこうか考える。
「お客さんがマリアと厨房の男の子が一緒にいたのを見たって言ったんだよ。理来くんはカウンターに顔を出すだろう、そのときの顔を覚えてるって、コンビニで会ったって言うんだ」
ヤバい。この店は大きいし流行っているからお客さんも多い。コンビニで見られたのか。気が付かなかった。
「僕じゃないでしょう」
「そんな嘘を言っても無駄だよ。車のナンバーまで書き留めたって言ったんだから。さっき理来くんの車を見に行ったら同じナンバーだった」
ああ、困ったな。『シリウス』に居ることが出来なくなった。
「理来くんは頑張ってくれてるから首にしたくないんだが決まりなんだ。今週いっぱいで辞めてもらう」
理来はガックリと項垂れた。仕方ない。都会に出ればニューハーフパブはいっぱいあるだろう。引っ越すしかないか。でもマリアと離れ離れになるのは嫌だ。マリアが独身だったら一緒に都内に連れて行くのに。
「マリアのことを考えてるんだろう。あの子は店を辞めさせないよ。指名が一番なんだから、理来くん、店の決まりを破ってお詫びはないのか?」
店長は拳を握りしめながらわなわなとしている。よっぽど怒っているみたいだ。
「すみませんでした。日曜日までちゃんと働いて辞めます」
「まったく、俺がもうちょっと若かったら手が出ていたかもしれない。怪我をしなくて良かったな」
店長はそう言い捨てると厨房を出て行った。
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