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「ああ、だから婚約は無かったことにしてくれ。君もこの子たちを見て分かっただろう。皆んないい子なんだ」
「だって男じゃない。子供だって産めないんだよ」
理来はぐさりと来た。確かにその通りだ。でもマリアはついている。女の人に子供を産ませることは出来る。どうしても子供が欲しかったら体外受精って手もあるだろう。靖春の今の彼女、ジェーンに玉がついているか知らないが。
「店で争いごとは困ります。外でやってください」
「私、帰る」
女の人は靖春の頭に水割りを掛けて毅然と帰って行った。理来は厨房にタオルを取りに行く。手を拭くために用意しておいた白いタオルを手に持つと靖春のところへ行った。
「あっ、この前のお兄さん、恥ずかしいところを見られちゃったな」
「いいえ、ニューハーフが好きなんですね。僕もです」
理来はそう言って靖春の頭を拭いてあげた。
「ジェーンと一緒に暮らしたい。でも、親が決めた婚約者がいたんだ。大学の頃から仲がよくてね。俺たちも結婚が嫌じゃなかったんだけど会社の同僚にここに連れて来られてからはニューハーフにはまった。ジェーンを愛しているんだ」
理来は目頭が熱くなった。自分も同じだ。水族館ではしゃぐマリアを見てから本気になった。
ジェーンはそっと靖春の横に座って手を握った。
「風邪ひいちゃうからシャツだけでも着替えたほうがいいよ。ウエイターの着替えがあるはずだから」
ウエイターはウンウンと頷いた。
「トレーナーとチノパンがあるので貸しますよ。トイレで着替えて来てください」
靖春は立ち上がって「ありがとう」と言った。
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