36人が本棚に入れています
本棚に追加
店員は四人掛けの席を指した。理来は椅子に腰掛ける。マリアは向かいのソファーだ。だいぶ酔っているようで眠そうな目をしている。
「水族館に行ったり連れ回しちゃったから疲れただろう」
「シティホテルに行きたいって言ったのは私じゃない」
「今日は無理だけど、日曜日に朝までゆっくりしようか?これからのことをゆっくり話したい」
「うん、うん、都内でパブをやるのね」
理来は大きく頷いた。でもマリアの奥さんには説明しなければいけない。
「マリアの奥さんに会えるかな?」
「あの女は私がお金のためにニューハーフを無理してやっていると思ってるの。私の心は男だって信じてるの。そんなことないのに」
そうなんだ。奥さんはマリアを男として愛しているのかな。それはややこしい。理来は肩をあげた。身体の関係があるのか知りたいが隣の席に聞こえたら困る。
「マリアの気持は?奥さんが好き?」
「私は理来くんが好き。奥さんとは一緒に暮らしてるから情はあるけど、私の心は女だもの」
理来は嬉しい。マリアは男だが本気で好きだ。
「込み入った話は日曜日にしよう。来週からは『シリウス』に行けないからね。二人だけで飲もうよ」
「あれっ?理来くん飲めるの?」
「ビール一杯くらいしか飲めないよ」
理来はそう言ってお味噌汁に手を伸ばす。マリアは枝豆をぷつっと口に入れた。
ファミレスを出てマリアのマンションに向かう。もう道順は覚えているのだが一応ナビをセットした。マリアはこくっこくっと首を上げ下げしている。かなり眠たそうだ。
軽自動車はマリアの家の前に着いた。
「着いたよ。また明日」
「うん、あー、眠い」
マリアはそう言って欠伸を噛み殺した。
最初のコメントを投稿しよう!