36人が本棚に入れています
本棚に追加
6
日曜日になった。理来はワンルームの部屋で目覚める。白い壁に白い天井、カーテンは遮光カーテンでグリーンだ。一カ月前に買ったばかりでまだ畳み皺がついている。
時計を見ると十時だった。昨日三時くらいまで起きていたから七時間は寝ている。理来はインスタントコーヒーを淹れた。今日が『シリウス』に出勤する最後の日だ。
夕方になって仕入れの買い物にスーパーへ行く。新しい厨房の人が見付かるまでウエイターが料理をするらしい。料理といっても切ったり盛り付けたり、それくらいしかしないから誰でも出来るだろう。
籠に鶏肉やチョコレートを入れる。なぜだか胸が苦しくなる。このスーパーでニューハーフパブの仕入れをするのは最後か。
少し早めに店に行く。冷蔵庫やキッチンを少し掃除してから辞めたい。立つ鳥跡を濁さずだ。
ウエイターが出勤して来た。厨房を覗いて「あっ、理来くん今日までだっけ」と言う。
「うん、だから掃除に早く来た。そうそう、唐揚げの下ごしらえの仕方を教えとくよ」
「あ、じゃあ、メモしとく」
ウエイターは棚からノートを取る。理来は丁寧にしょうがを擦ることから教えた。ウエイターは困ったように言う。
「一口大って言われても分からない。実際に作ってみてくれ」
「分かった。今日の分をこれから作るから見ててくれ。揚げるときにまた呼ぶよ」
理来はジップロップを出して包丁で切った鶏肉を入れた。そこに調味料を加える。
「だいたい分かったかな?」
「ああ、後は揚げ方だな。明日から俺が作るなんて心配だよ」
「すぐにコツを掴むよ」
理来はそう言って口角をあげた。
最初のコメントを投稿しよう!