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店が始めるとお店に花屋が薔薇の花束を持ってやって来た。理来はちょうどカウンターに出たときだったので花屋と目が合った。誰か誕生日だったっけ。そう思っていると「理来さんっていう方にだそうです」と男の人は言った。
ミッシェルが速足でやって来て「これだけ?」と花屋に訊いた。
「いえ、まだ車にありますよ。全部が理来さんへだそうです」
「そう、カウンターに置いて行ってくれる?」
「分かりました」
花屋は花束を十個置いて胡蝶蘭も二つ置いた。
「今までお世話になったお礼に花束を贈ろうって決まったの。マリアが皆んなに呼び掛けたんだよ」
ミッシェルがキュッと口角をあげる。理来は感動で涙が出そうになった。
「短い間だったけど楽しかった。ありがとう」
マリアはボックス席でお年寄りの相手をしていたが、花束が届いたことに気が付いたようでスタスタと歩いて来た。
「一人一つって訳ではないから数は少ないけど店の皆んながお金を出したの。理来くんにいつもよくして貰ってるお礼だって」
店長は困ったような顔をしている。まさか理来がこんなに人気があるとは思っていなかったんだろう。
「花束はカウンターに置いておいていいよ。二人分スペースを取られるけど、仕方ない。皆んなの気持だもんな」
店長はそうぶっきらぼうに言うと理来に握手を求めた。
「俺は雇われ店長だから規律違反を見逃すわけにはいかないんだ。でも休まず厨房をやってくれたことには感謝してる」
「店の決まりを破ってすみませんでした」
「いいんだよ。マリアを泣かせたらダメだぞ」
理来は笑顔を作った。店長もいい人だったな。
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